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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

ムカつく感情の裏側にある心理構造

 
 
暴力 ストップ
 

要約 :「未処理感情」

理由のない怒りの背景には、家庭での経験や未処理の感情が潜んでいるとみなします。本稿では、その心理構造と臨床での向き合い方を解説します。

裏側にある“その人自身の歴史”

患者さんの中には、特定の相手に対して理由の説明がつかないほど「ムカつく」「気に入らない」という感情を抱く人がいます。一見すると“相手が悪い”と感じられるかもしれません。しかし臨床の場で丁寧に話を聴いていくと、その怒りの中心には相手ではなく、その人自身の 未処理の体験家庭内でのストレス が潜んでいることが少なくありません。

ある患者さんに「なぜその女性が嫌いなのか」と尋ねたところ、「障害のせいで私のことを認めてくれないのだと思う」と答えました。しかし直後に「そんなことは具体的に言われたわけではない」とも続きました。つまり“嫌い”の正体は、目の前の相手ではなく、その人が過去に味わった拒絶感や孤立感が再生されていることが多いのです。

こうした背景を理解するために、私はよく「ご家庭で何かありましたか?」「過去の経験と重なっている部分はありますか?」と尋ねます。これは相手を責めるための質問ではありません。むしろ“いまの怒りの正体がどこから来ているのか”を一緒に探すための、安全な扉を開く作業です。

「加害者側の事情」としての怒り

怒りや敵意は、しばしば“被害を受けている側”の反応のように見えます。しかし心理学的には、理由も説明できない怒りは 加害者側の事情 と呼べる場面があります。これは、相手を悪者にするためではなく、

「本当の問題は、相手ではなく“自分の内側にある痛み”である」
という事実を丁寧に照らし出すための言い方です。

怒りは、防衛の役割を持ちます。
家庭で理不尽な扱いを受けてきた人は、新しい人間関係のちょっとした表情や言い回しに過敏に反応しやすくなります。すると、実際の相手の言動よりもはるかに大きな怒りが生まれ、「ムカつく」「気に入らない」と感じやすくなるのです。

もし怒りが相手に向かっているはずなのに、本人の説明はいつも曖昧で「うまく説明できないけれど嫌だ」という場合、そこで探すべきなのは“相手の問題点”ではなく、本人がかつて受けた 扱われ方/無視/拒絶の記憶 です。

このような怒りは、原因を外に求め続ける限り解決しません。
しかし内側の歴史に光を当てると、怒りの温度はゆっくりと下がり、より適切な距離の取り方が見えてきます。

治療法

「家で何があったの?」が、怒りを鎮める第一歩

だからこそ臨床では、「家で何かあったのですか?」または「この出来事は、あなたの過去の何と重なっていますか?」と丁寧に尋ねることが重要です。これは、怒りの矛先を外から内へ移す作業であり、本人が自分の感情を取り戻すためのプロセスです。

怒りは悪いものではありません。
むしろ、それが語っているのは“その人がこれまでどう扱われてきたか”という、非常に個人的で尊い物語です。

怒りを表面的に抑えたり、誰かを悪者にしても、真の解決にはつながりません。
しかし、自分の歴史とつながり方を見直すと、怒りは「自分を守るためのサイン」へと変わっていきます。

理由のない怒りは、必ずどこかに理由があります。
その理由を一緒に探しに行くことこそ、治療者と患者の共同作業になってきます。

 

院長プロフィール

川崎沼田クリニック 院長
日本精神神経学会 専門医

沼田真一

平成12年、秋田大学医学部卒。
同年東北大学医学部精神科に入局後、東北会病院(仙台)嗜癖疾患専門病棟にて併行研修。
平成14年、慶應義塾大学精神科医局に移り、同時に家族機能研究所・さいとうクリニック(東京・港区)で研鑽する。
平成16年、財団法人井之頭病院(東京・三鷹)で、アルコール依存症専門病棟担当医。
平成17年よりはさいとうクリニックで、アルコール依存・摂食障害・DV(虐待)・ひきこもりなど家族問題と精神疾患に従事する傍ら、産業医としての診療や各種のハラスメントなど組織内の人間関係問題に対する相談業務を担う。

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