1Jun

言い合いが“ループ”する感覚
会話の中で、なぜか話が前に進まず、同じやりとりが繰り返されることはないでしょうか?
たとえば、サービス窓口でのクレームや、病院や役所での怒鳴り声。相手が説明しても、なぜかまた最初に戻ってしまう。終わる気配がない、まるで“堂々巡り”のような言い合い―それは、感情のループです。
このようなやりとりに共通する特徴は、「本題が進まず、何度も同じ話が繰り返されること」です。
そしてこの“感情のループ”には、実は深い心理的背景があります。
ループの正体:相手が違う
このループがなぜ起こるのか。
それは「目の前の相手に向かって話しているようで、実は別の誰かに向けた言葉になっているから」です。
たとえば、ある人が病院の受付で強い怒りをぶつけているとしましょう。
しかし、その怒りのエネルギーの大きさや執着の強さは、どう考えても目の前のスタッフに対してだけのものではない―そんな違和感を覚えたことはありませんか?
このようなとき、人は“別の誰か”に言いたいことを、代わりの誰かにぶつけているのです。

カスタマーハラスメントはなぜ終わらないのか
の「言いたい相手が目の前にいない」という構造は、カスタマーハラスメント(カスハラ)にも見られます。
銀行員に激しく詰め寄る人。鉄道会社の窓口で怒鳴りつける人。
その怒りは、理屈としては目の前の手続きやトラブルへの不満かもしれません。
しかし、やりとりがループし続けるなら、それは「怒りの本当の矛先が別の場所にある」サインです。
本当は――
・子どもの頃に無視された親に言いたかった
・社会の不条理に抗議したかった
・自分を支配した存在に「NO」と言いたかった
そんな過去の感情が処理されないまま残っていて、それを誰かにぶつけたいという欲求が、目の前の“対応するしかない人”を代わりに選んでいるのです。
終わらないループからの脱出
目の前の人は“代役”なので、いくら丁寧に説明しても、相手の心には届きません。
なぜなら、その人が本当に言いたいことは、「この場」には存在していないからです。やりとりは無限ループとなり、カスハラはエスカレートしていくのです。
ここで大切なのは、「この人の言葉は、自分に向けられているようでいて、実は違う誰かへのものかもしれない」と理解する視点です。対応する側がこの構造を見抜ければ、傷つき方も変わってきます。「自分のせいではない」とわかるだけで、防衛ができるのです。
そして、怒りをぶつけてしまう側にとっても、感情の“本来の相手”に気づくことは、終わらないループから脱出するための大きなヒントになります。
おわりに:ループに気づくことから始まる
言い合いがぐるぐるとループするとき、私たちは「本当にこの人に言いたいのか?」「他の誰かを代わりにしていないか?」と、自分に問いかけてみることができます。これは、自分の怒りの出所に気づくための、最初のステップです。
カスハラの背後にある「言えなかった言葉」や「届かなかった思い」は、本当は整理されるべき大切な感情かもしれません。そして、その感情を“本来の場所”に戻せたとき、ループは終わり、やりとりは前に進み始めるでしょう。