20Apr

「見られる私」に縛られる
「依存」と聞くと、薬物やアルコール、恋愛やスマートフォンを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、私たちの多くが無自覚に陥りやすい依存の一つに、「他人の評価」への依存があります。
「どう思われているか」「嫌われていないか」「もっと認められたい」――このような思考が強くなると、自分の選択や価値観さえも、他人の視線を軸に組み立ててしまいます。
精神科診療の現場では、この「他者からの評価」を巡る心の揺らぎが、うつ状態、不安、怒り、対人恐怖といった症状に形を変えて表れる場面に、しばしば出会います。
なぜ「他人の目」はそんなに気になるのか?
評価に依存してしまう背景には、自己感覚の曖昧さがあります。自分がどうありたいかよりも、「どう見えるか」「どう思われるか」が優先されると、自分の輪郭が他人に委ねられていきます。
この構造は、ある種の「トラウマ反応」とも言えます。例えば、幼少期に「いい子」でいることで愛情や安心を得てきた人は、「他人の期待に応えることで存在を許される」という信念を持ちやすくなります。すると、大人になってからも他人の評価が自己価値の支えとなり、自立的な判断が難しくなるのです。

評価との距離感を取り戻す
もちろん、他人の評価をまったく気にしないというのは現実的ではありません。社会の中で生きる以上、一定の「評価の交換」は避けられないものです。問題なのは、その評価が「唯一の価値基準」となってしまうことです。
他人の評価に依存しすぎていると感じたときは、「私は本当はどうしたい?」「この行動は誰のため?」と、自分に問い直してみることが大切です。自己感覚を取り戻す作業は地味で手間もかかりますが、そこにこそ、依存からの回復があります。
「評価に振り回される自分」を否定するのではなく、「それに気づける私」を育てていくこと――それが、自分の輪郭を他人に委ねずに生きるための第一歩かもしれません。