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摂食障害は何に対する否認なのか (前)

 
 
憂鬱 少女
 

摂食障害はなぜアディクションに含むのか

一般的にアディクションといえば、アルコールや薬物などの物質に伴う障害、次いでギャンブル障害など行動を対象とした衝動統制障害、そして21世紀に入ってからいわゆる社会的なひきこもりやゲーム・スマホ、DVや児童虐待など加害行為を枠組みとして捉えるようになりました。

その中で摂食障害 (拒食、過食嘔吐) は、それこそ20世紀から生育や家族問題、トラウマなどが絡んで発症することが臨床例から明確になり、上述のアディクションに含んだ形で枠組みと治療がなされてきました。アディクションを掲げる精神科の病棟は精神科的な側面からの入院ももちろんのこと、私が以前いた大学の心療内科には、拒食に伴うホルモン異常など痩せに伴う様々な身体的の側面においての入院治療もあり、同様の病名でもアプローチによって主たる治療科が異なる時代がありました。

私は医学部5,6年の臨床実習時代からこのような摂食障害の様子を勉強してきました。確かに摂食障害は冒頭のような様々なアディクションと表面上は似ているのですが、肝心なところで交わらず、しばらくの間納得がいっていませんでした。アディクションを先行するようになってからも、巷ではアディクションということで確かにある意味ルーチンの必要事項として家族関係など背景と個人事情の結びつき掘り下げるのですが、その執着の対象や性質、あるいは本人の治療に対する方向性も他のアディクションとは大きく異なるのです。

今回はこの点を私なりに推敲し、依頼されたアディクションに関する本に示しましたので、抜粋してみます。

精神科治療学 第38巻増刊号:アディクションとその周辺/星和書店 (seiwa-pb.co.jp)

アディクションとは「否認」がキーポイント

これまで、アディクションに該当するには「否認」というものが大きなキーワードとして挙げられます。例えばアルコール障害ならば「俺はアル中じゃない」という抵抗が必要です。

冒頭に出した例に則れば、薬物でもギャンブルも、「のめりこんでいない」という主張が当事者から入ります。わかりやすいところでは、事件になって児童虐待でも、当事者は「暴力ではなく、しつけの一環である」という報道がなされます。事件にまでなっているので、傍からみて言い逃れではないかと見えるかもしれませんが、少なからず当事者はこのように述べています。これが「否認」といわれ、アディクションと括るにはとても重要な項目です。

しかし拒食症や過食嘔吐を伴う摂食障害の人には、この「否認」がありません。もちろん食行動自体は否認しません。加えて結果としての著しい痩せに対してももちろん隠そうとせず、むしろ「もっとやせたい」と述べます。これがアディクションに含ませることに若干疑問を持たざるを得ないところだったかと思います。

フードアディクションと過食性障害

ところが、最近摂食障害を含めた一連の食行動における衝動統制障害を「フード・アディクション」として扱うようになってきました。(前述の私の著述のタイトルも、フード・アディクションとして記載しています) これは診断基準が細分化され、いままではっきりせずに埋もれていた「過食性障害」という診断基準が新たに生まれたことによります。

過食性障害とは、細かい診断基準は省略してここではイメージとして示しますが、「欧米人がジャンフードとコーラを摂りながらテレビをずっと見ている場面」などを想像して頂ければと思います。当然肥満傾向になるので、いわゆる摂食障害とは異なります。

実はこれこそが、冒頭の古典的なアディクションで説明できる食行動の衝動異常といえるのではないでしょうか。つまり「私はそんなに食べてはいない」という、対象に対する「否認」を作り出す構造になっているからです。酒や薬物、ギャンブル、暴力と初めてつながりました。

ところが特に日本では、このように年中飲食していて肥満という姿は稀であり、特に精神科受診の契機にはなりません。こと身体的に不都合が生じて内科や外科などを受診しますが、身体科は対象部位に対してのアプローチですから、当然体重減少を促され、その手段としては運動となるでしょう。食事量が多くとも、この原因が「食事に対する衝動」という捉え方は身体科では薄かったでしょう。繰り返しですが、このような場合に自らの旺盛な食行動を否認することにつながります。

この後は、摂食障害とは何に対する否認だからアディクションとして成り立つのかを示します。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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