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行動経済学の応用 (前) : 「屈服」で人は動かない。

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依存症治療の「底つき体験」

依存症治療の中に「底付き体験」というものがあります。アルコール依存症ならば、「いくら言っても本人が治療に入ろうとしないときは、日常生活がままならなくなり、本人が参ったというまで待つ」というのが一つの戦略にありました。

これはいまや最先端な話ではありませんが、おそらく現在でも一つの基礎的な考え方として存在していると思います。ちなみに我々の症例検討などの場でも、締めの合意の言葉に堂々と使う傾向も見られます。私は研修医時代に教わった際に多少の違和感がありましたが、いつのまにかこのようなこの合意をほ受け入れていた部分も否めません。そして考えとは怖いもので、どこでも通用する流れに至ると、これが「正しさ」として捉えられてくるのです。

「その気」になってもらうために。

しかしこの「本人が参ったというまで待つ」という考え方は、戦略と言えるでしょうか。

なぜならアルコール依存症ならば「酒を飲みたくなくても、他に自分の気持ちを落ち着かせる方法が思いつかない」ために、酒飲みという目先の拙い方法を選択しているのです。当事者が心から望んで歯止めの効かない酒の飲み方をしているわけではありません。

そこに「恥の意識」が芽生え、一方でその恥意識を目の前にあからさまにしたくない「見栄」や「意地」があいまって頑なになっているのです。よって少なくとも心の奥底では、まがいなりにも自分の「いま」の様子に悩んでおり、解決の方向性が分からずに「ムキ」になっている…これが依存症です。

以上より、本当はいまに満足して当事者に対し、いかにして変化に「誘うか」…これが本来依存症の治療に課せられた命題です。つまり「どのようにしたら、新しい行動をしたくなるか」ということです。

しかしこのようなことは、経済という視点から見れば、通常のことです。経済学には既に既存の理論経済とは別のものとして、行動経済学というものがあります。これが人間の「思わず」を司っている研究です。

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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