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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

理不尽な我慢をした人ほど「平等」にこだわる

 
 
飲み物を片手に読書する様子
 

はじめに

人が強く「平等」を求める背景には、過去の理不尽な我慢が関係していることがあります。本稿では日常の出来事を手がかりに、理不尽と平等欲求の心理構造を精神分析の視点から考察します。さらに、全体の不平等を温存したまま部分的な平等を強調する組織構造にも触れます。

理不尽な我慢と平等欲求の関係

電車の中で子どもが泣いている場面に出会いました。周囲の大人が嫌な空気を出している。その様子に、私は反応している自分に気づきました。「気にしなくていい」と思いながらも、どこかで腹が立っている。その怒りの正体を辿ると、「我慢の平等性が脅かされる感覚」に行き着きます。

理不尽な我慢を経験した人は、「なぜ自分だけが耐えなければならなかったのか」という問いを抱えます。この問いが十分に扱われないと、「みんな平等でなければならない」という強い理念が防衛として形成されます。これは倫理的主張であると同時に、「自分だけが損をする構造を繰り返さないための心理的装置」でもあります。

部分的平等が強調される組織構造

例えば高校野球の寮生活を考えてみます。1学年上の先輩には絶対に逆らえないという上下関係がある。暴力や理不尽も受け入れざるを得ない。ここでは全体の平等は成立していません。しかし興味深いのは、「同じ学年の中では平等」が厳密に守られることです。同学年の間では横並びであることが強調されます。

軍隊や警察も同様です。細かい階級制度で構成され、階級間には明確な不平等が存在します。しかし、同じ階級の内部では平等が保たれる。全体の不平等は維持されたまま、部分的な平等が強く強調されるのです。

海岸を歩く家族の影

平等の再編成という心理的処理

これは平等の否定ではありません。むしろ「平等を再編成する」構造です。全体の平等が剥離していても、小さな囲いの中で強い平等を作れば、あたかも平等が守られているように感じられます。平等性を歪め、限定的に再配置することで、秩序と納得感を作るのです。

日本の旧来型の組織統治も、この構造を巧みに用いてきました。家父長制的組織、年功序列、先輩後輩文化。全体としては明確な序列がありながら、同質集団の内部では強い連帯と平等が強調される。そこに不満の緩衝装置が働きます。

未処理の怒りと回復の条件

精神分析的に見ると、これは攻撃性の再配置とも言えます。フロイトが述べた抑圧、メラニー・クラインが論じた嫉妬と攻撃性の道徳化。理不尽への怒りは、構造の変更ではなく、囲いの内部での平等強化という形で処理されることがあります。

しかし、傷が未処理のままでは、外部の些細な出来事にも強く反応します。電車内の嫌な空気に反応した私自身も、「不平等を見逃してはならない」という過去の感覚が刺激されていた可能性があります。

本当の回復とは、囲いを作り直すことではなく、「あのとき理不尽だった」と言語化することです。理不尽を理不尽として扱うこと。それができて初めて、平等は防衛ではなく理念として機能します。

 

院長プロフィール

川崎沼田クリニック 院長
日本精神神経学会 専門医

沼田真一

平成12年、秋田大学医学部卒。
同年東北大学医学部精神科に入局後、東北会病院(仙台)嗜癖疾患専門病棟にて併行研修。
平成14年、慶應義塾大学精神科医局に移り、同時に家族機能研究所・さいとうクリニック(東京・港区)で研鑽する。
平成16年、財団法人井之頭病院(東京・三鷹)で、アルコール依存症専門病棟担当医。
平成17年よりはさいとうクリニックで、アルコール依存・摂食障害・DV(虐待)・ひきこもりなど家族問題と精神疾患に従事する傍ら、産業医としての診療や各種のハラスメントなど組織内の人間関係問題に対する相談業務を担う。

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