5Mar

はじめに
インターネットやSNSでは、ある出来事をきっかけに強い批判が広がり、時に激しい攻撃へと発展することがあります。いわゆる「炎上」と呼ばれる現象です。その多くは「悪いことをしている人を批判しているだけ」という正義感から始まります。しかし、集団の中でその正義感が増幅すると、やがて個人に対する攻撃へと変化してしまうことがあります。
今回は別記事と重なるところもありますが、重要な観点の為SNSで起こる炎上やネットいじめの背景にある心理構造について、精神科の視点から再考します。
SNSで攻撃が広がる理由
SNSでは、ある出来事に対して多くの人が意見を述べることができます。その中には社会的に重要な問題を指摘する意見もあります。しかし同時に、批判が次第に強まり、特定の個人を集中的に攻撃する状況が生まれることも少なくありません。
このとき多くの人は、自分が攻撃をしているという意識を持っていないことがあります。むしろ「間違っていることを指摘している」「社会のために発言している」と感じていることがあります。つまり攻撃の出発点には正義感が存在していることが多いのです。
SNSでは、この正義感が集団の中で急速に拡大します。ある投稿に批判的なコメントが集まり始めると、それを見た他の人も同調しやすくなります。この現象は心理学ではバンドワゴン効果と呼ばれます。多数派に見える意見に人が引き寄せられる心理です。
集団心理が攻撃を拡大させる
結果として、最初は一部の批判だったものが、次第に大きな集団の攻撃へと変わっていきます。個々の人は小さな批判をしているつもりでも、それが積み重なると強い圧力になります。SNSの炎上では、このようにして集団による攻撃が形成されていきます。
インターネットでは、自分の顔や名前を出さずに発言することができます。そのため現実の対人関係では抑えられている感情が表に出やすくなります。怒りや不満が比較的簡単に言葉として発信されてしまうのです。

匿名性と感情の拡散
精神分析の視点から見ると、ここには投影という心理が関係していることがあります。人は、自分の中にある不安や怒り、劣等感をそのまま受け止めることが難しいとき、それを他人に押しつけることがあります。そして、その相手を批判することで、自分の中の不快な感情を処理しようとするのです。
例えば、強いストレスを抱えているとき、人はその原因を直接表現することが難しい場合があります。その代わりに、SNSで見つけた誰かの言動に怒りを向けることで、感情の出口を作ることがあります。このとき攻撃の対象になっている人は、必ずしも本当の原因ではないことがあります。
正義感が攻撃に変わるとき
このように考えると、SNSの炎上やネットいじめは、単なる悪意だけで説明できる問題ではないことが見えてきます。そこには正義感、集団心理、匿名性、そして個人の感情処理の問題が複雑に重なっています。
もちろん誰かを傷つける行為が許されるわけではありません。しかし、こうした心理構造を理解することは、ネット上の攻撃がどのように広がるのかを考えるうえで重要です。
SNSは人と人をつなぐ便利な道具ですが、同時に感情が増幅されやすい場でもあります。ネット上の批判を目にしたとき、それが本当に必要な指摘なのか、それとも集団の空気の中で拡大している攻撃なのかを一度立ち止まって考えることが大切です。
正義感は社会にとって重要なものです。しかしそれが集団の中で増幅されたとき、時に誰かを深く傷つける力にもなります。SNSの時代においては、正しさを主張するだけでなく、その言葉がどのような影響を与えるのかを考える姿勢が求められているのかもしれません。
参考文献
Olweus, D. Bullying at School: What We Know and What We Can Do.
American Psychological Association Cyberbullying Research
文部科学省 いじめ問題への対応
https://www.mext.go.jp/
院長プロフィール
川崎沼田クリニック 院長
日本精神神経学会 専門医
沼田真一
平成12年、秋田大学医学部卒。
同年東北大学医学部精神科に入局後、東北会病院(仙台)嗜癖疾患専門病棟にて併行研修。
平成14年、慶應義塾大学精神科医局に移り、同時に家族機能研究所・さいとうクリニック(東京・港区)で研鑽する。
平成16年、財団法人井之頭病院(東京・三鷹)で、アルコール依存症専門病棟担当医。
平成17年よりはさいとうクリニックで、アルコール依存・摂食障害・DV(虐待)・ひきこもりなど家族問題と精神疾患に従事する傍ら、産業医としての診療や各種のハラスメントなど組織内の人間関係問題に対する相談業務を担う。







