口コミと“正しさ”の心理 : 投稿に込められた心の構造

   

今回は“伝える衝動”とその奥にある心のしくみについて述べます。

想像で語る「口コミ」が生まれるとき

ある場所に行こうと思ったとき、何かを選ぼうとしたとき、その印象を決める手がかりとして、誰かが残した言葉を探すことは、ごく自然なことです。

けれど、その中には、ときに「まだその場所を体験していない方」からの発信も含まれています。あたかも自分がすでにそこで何かを体験したかのように、「これはきっとこうなるに違いない」「この場所は自分にとってこういうところだろう」と、過去の経験や記憶に基づいた想像で、ことばを投じている場合があるのです。

そうした投稿には、ある共通した背景があります。
それは、“歪んだ正義感”と呼ばれるような心の動き。
誰かに頼まれたわけでもなく、実害があったわけでもないのに、「これは放っておくと他の人に迷惑がかかる」「自分が声をあげなければ誰かが傷つく」といった思いが、強く前に出てくる。

その感覚の奥には、多くの場合、「自分の過去の経験」が関わっています

見張られていた過去が、今の行動をつくる

たとえば、かつて家庭の中で——あるいは学校や職場などの集団の中で——自分の行動が“みんなに見られている”と感じさせられた体験。誰にも理由を説明されないまま、「あなたのせいで…」と言われた記憶。そうした過去の“ギャラリーのまなざし”が、今度は自分が「ギャラリー側」に回ることで、合理化される。

「私は悪くない」「私は正しいことをしている」そう言いたくなる背景には、「誰かに見張られていた記憶」が眠っています。

そのような構造があること自体を、私たちは否定しません。
むしろ、それもまた心の防衛として大切な動きです。
けれど、今のあなたの行動を、誰かが一方的に断罪したり、「迷惑だ」と断じたりするような場面は、ここにはありません。

誰かの行動を「見張る」必要がないように、あなたの行動もまた、誰かに監視されているわけではないのです。

心の防衛としての投稿と、安心の欲求

この“ギャラリーのいない場所”でこそ、本当の意味で、自分の感覚と静かにつながることができます。

強い言葉が投稿されるのは、「否定されたくない」という思いの裏返し。
一方で、肯定的な言葉もまた、「自分の選択を信じたい」「これは正しかったと思いたい」という願いから生まれることがあります。

つまり、「ことばを残す行為」はすべて、自分の中の何かを確かめたい気持ちの表れです。
それは攻撃でも操作でもなく、どこかで「安心したい」という欲求のかたちかもしれません。

ことばの奥にある“自分でいられる場所”

私たちは、そうした心の構造を否定しません。
そして、たとえその表現がときに乱暴に見えたとしても、それを“防衛の形”として理解しながら、本当はやりたくない行動を「やらずにすむ」ように、そっと手当てを届けていきたいと考えています。

たくさんの言葉が飛び交うなかで、迷うことがあっても、最終的に自分の選択を決めるのは「どんな場所なら、いまの自分でいられるか」という感覚です。

誰かの言葉ではなく、自分の内側でふっと静まるもの。
それを感じられるような場面が、人生には必要だと思います。

私たちのページや言葉が、その入口のひとつになれたなら幸いです。