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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

過去の取り返し④ : パワハラはなぜ繰り返されるのか

 
 
飲み物を片手に話し合う様子
 

はじめに 問題は相手ではなく関係の型にある

※パワーハラスメントは行為と関係性の問題であり、本稿は特定の人物を診断するものではありません。過去の被害経験が現在の加害を正当化するものでもありません。

パワーハラスメントの相談では、加害する人が「この部下だから注意が必要だった」「仕事のできない人が続いただけだ」と説明することがあります。ところが相手が異動しても、新しい部下との間で同じ問題が起きる。責める理由は変わっても、細かな落ち度を探し、謝罪や服従を求め、相手が萎縮するまで追及する関係は変わりません。

このような場合、問題は一人ひとりの部下ではなく、加害する人がつくる関係の型にあります。相手を下に置いて従わせると、一時的に安心する。反論されると自分が否定されたように感じ、さらに強く責める。相手が従っても安心は長く続かないため、次の不満を見つける。対象が入れ替わっても同じ反応が続く点は、依存症的な反復と考えることができます。

もちろん、部下への注意や業務指導がすべてパワハラになるわけではありません。本稿が扱うのは、必要な指導の範囲を超えて人格を否定する、謝罪を繰り返させる、拒否や説明を許さないなど、力関係を使って相手を支配する行為です。]

パワハラは診断名ではなく行為の問題ですが、その反復を止めるには、行為の背後にある心理と職場の構造の両方を見る必要があります。

被害者だった人が加害者役へ移る

加害する人の中には、かつて自分も強い立場の人に従わされてきた人がいます。家庭で親の機嫌を読み、反論すれば責められた。学校や職場で、先輩の理不尽な命令に耐えた。当時は相手に逆らえず、怒りや屈辱、怖さを表に出せなかった。その感情が処理されないまま残ると、力関係が逆転した場面で再び動き始めることがあります。

本当は、過去の相手に「なぜ私をあれほど傷つけたのか」と言いたかった。しかし、現在になってもその相手には言えない。そこで、自分より反論しにくい部下や後輩を過去の相手の位置に置き、今度は自分が強い側に立ちます。かつて奪われた主導権を取り返し、「もう自分は弱くない」と確かめようとするのです。これが、パワハラとして現れる過去の取り返しです。

この動きは、必ずしも計画的に行われるわけではありません。本人は自分を、厳しく指導しているだけ、職場を守っているだけと考えていることがあります。心理学には、傷つけた相手の振る舞いを取り込み、同じ側へ移る「攻撃者との同一化」という見方があります。

ただし、過去に被害を受けたことは、現在の加害を正当化しません。背景を理解することと、責任を曖昧にすることは分けなければなりません。

職場が反復を支えてしまう

パワハラの反復は、本人の心理だけで続くものではありません。周囲が、怒る人の要求を先に通す、被害を訴えた人を別の部署へ動かす、仕事の成果が高いからと叱責を見逃すと、加害する人は「このやり方でよい」と学びます。問題が起きるたびに相手だけが去り、加害する側が同じ位置に残れば、新しい対象との間で同じ関係が始まります。

また、被害を受けた人が謝罪し、仕事を肩代わりし、周囲が後始末を続けると、表面上は職場が静まります。しかし、その静けさは問題の解決ではありません。怒りや威圧によって周囲を動かせた経験が積み重なり、行為はむしろ強化されます。家族問題や依存症で、周囲の尻拭いが本人を加害者にさせ続けるのと似た構造です。

職場が「悪気はない」「昔からああいう人だ」「注意するともっと面倒になる」と説明して終わらせることもあります。こうした理解は、加害する人の変化を促しません。被害を受けた人に我慢を求めるだけでなく、加害する人からも、自分の行為を振り返り別の伝え方を学ぶ機会を奪います。

周囲が境界線を示さないことによって、加害者という役割が固定されてしまうのです。

加害者を作らないことで連鎖を止める

反復を止める第一歩は、出来事ごとに言い分の正しさを争うだけでなく、同じ関係が何度繰り返されているかを見ることです。誰が相手でも謝罪を求め続ける、注意が人格批判へ広がる、対象になった人が次々に辞めるといった経過は、個別の部下の問題だけでは説明できません。記録を残し、行為と業務上の必要性を分け、許されない言動を具体的に示す必要があります。

部下が反論すると、なぜこれほど脅かされた気持ちになるのか。

以前、誰に逆らえなかったのか。

相手を従わせた直後に、何が少し楽になるのか。

怒りの奥にある屈辱や無力感を自分の感情として認められると、現在の相手に過去の役をさせる必要が少しずつ減っていきます。力を使わずに依頼し、断られても関係を保つ経験を重ねることも必要です。

治療や職場対応の羅針盤は、「加害者を作らないこと」です。それは被害者を守ることと、加害する人の行為を早い段階で止めることの両方を含みます。理由を理解しても、行為は許容しない。被害を受けた人に後始末をさせず、組織が責任を持って境界線を引く。本人にも別の関係のつくり方を求める。その積み重ねによって、被害者だった人が次の加害者になり、さらに新しい被害者を生む連鎖を止められます。

過去の取り返しは、過去と向き合うことでしか終わらないのです。

 

院長プロフィール

川崎沼田クリニック 院長
日本精神神経学会 専門医

沼田真一

沼田真一

平成12年、秋田大学医学部卒。
同年東北大学医学部精神科に入局後、東北会病院(仙台)嗜癖疾患専門病棟にて併行研修。
平成14年、慶應義塾大学精神科医局に移り、同時に家族機能研究所・さいとうクリニック(東京・港区)で研鑽する。
平成16年、財団法人井之頭病院(東京・三鷹)で、アルコール依存症専門病棟担当医。
平成17年よりはさいとうクリニックで、アルコール依存・摂食障害・DV(虐待)・ひきこもりなど家族問題と精神疾患に従事する傍ら、産業医としての診療や各種のハラスメントなど組織内の人間関係問題に対する相談業務を担う。

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