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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

過去の取り返し② 謝っても済まない人

 
 
いじめ
 

はじめに 謝罪を得ても終われない

※「すみません依存症」は正式な医学用語や診断名ではなく、本稿で心理的な関係性を説明するために用いる表現です。

前回の「過去の取り返し①」では、相手に「謝って」と繰り返し求める人の心理を取り上げました。謝罪を強く求める背景には、目の前の出来事だけでなく、過去に得られなかった謝罪や承認を取り返そうとする気持ちが隠れていることがあります。

今回は、その先を考えます。実際のカスタマーハラスメントや職場の執拗な叱責では、相手が謝罪しても終わらないことがあります。「謝れ」と迫ったのに、謝罪を受けると「謝って済むと思っているのか」と追及する。責任者の謝罪、文書による謝罪、処分、補償へと要求が広がり、別の落ち度まで持ち出されます。ここでは、謝罪は解決の終点ではなく、次の要求の入口になっています。

もちろん、正当な苦情や被害申告には、事実確認と適切な謝罪、必要な補償が欠かせません。本稿が扱うのは、問題への対応が済んでも要求の内容が移り続け、謝罪を受け取ること自体が目的のようになっている場合です。

私はこの関係性を、正式な診断名ではなく、心理を理解するための言葉として「すみません依存症」と呼んでいます。

謝罪を繰り返し欲しがる仕組み

依存の対象は、「すみません」という言葉だけではありません。相手を謝らせることで、「私の痛みは正しかった」「私は粗末に扱われてよい存在ではない」と確認できる。その瞬間には安堵や高揚感が生まれます。しかし、その効果は長く続きません。心の傷そのものが回復したわけではないため、また不満を探し、もう一度相手を謝らせる必要が出てきます。

この点が依存症に似ています。一度の謝罪では足りず、より強い謝罪、より上の立場の人の謝罪、目に見える処分や賠償が必要になっていきます。要求がかなえば静まるように見えても、やがて別の理由で同じ関係が繰り返されます。本人が欲しがっているのは問題の解決よりも、相手を自分に向き合わせ、自分の痛みを認めさせ続ける関係なのかもしれません。

問題が終われば、相手とのつながりも、自分が優位に立てる時間も終わります。怒り続け、被害を訴え続ければ、相手は自分から離れられません。そのため本人の自覚とは別のところで、関係を「終わらせたくない」という力が働くことがあります。謝罪を求めながら、謝罪による終結は受け入れられないという矛盾が生まれます。

海岸を歩く家族の影

謝罪の宛先が違う

なぜ、目の前の人が何度謝っても足りないのでしょうか。それは、本当に謝ってほしかった相手が別にいるからだと考えると理解しやすくなります。子どもの頃に話を聞いてくれなかった親、理不尽に責めた養育者、自分の痛みをなかったことにしたきょうだいや配偶者などです。その人から受け取りたかった「悪かった」「つらかったね」という言葉を、いま反論しにくい店員や部下、同僚から取り返そうとします。

本人が意識的に相手を選んでいるとは限りません。未処理の感情が現在の出来事によって刺激されると、昔の痛みと今の不満が一つになります。すると目の前の相手は、実際にしたこと以上の責任を負わされ、過去の加害者の役まで引き受けさせられます。相手が謝るほど、本人には「自分の傷はやはり重大だった」という感覚が生まれますが、謝罪の宛先が違うため、言葉は古い傷に届きません。

ここに不毛さがあります。求める側は満たされず、謝る側は何をすれば終わるのか分かりません。さらに謝罪を重ねると、要求が正当だったという感覚が強まり、被害と加害の役割が固定されます。過去の被害を取り返そうとする行為が、現在の誰かを傷つける加害へ変わることもあります。背景を理解することと、行為を正当化することは分けなければなりません。

過去の取り返しを終えるために

要求を受ける側は、事実として認めるべき点を確認し、必要な謝罪や対応を一度、明確に行います。その後も要求が変わり続ける場合は、記録を残し、窓口を一本化し、対応できる範囲とできない範囲を示す必要があります。相手の痛みを理解しようとすることと、無制限の要求に従うことは別です。際限なく謝ることは、相手の回復にもつながりません。

求め続ける本人には、「どうすればもっと深く謝らせられるか」ではなく、「私は本当は誰に謝ってほしかったのか」という問いが必要です。何を分かってもらえなかったのか。どの出来事が、いまも終わっていないのか。目の前の人に誰の役をさせているのか。そこが見えてくると、現在の問題と過去の痛みを少しずつ分けられるようになります。

本当に謝ってほしい相手から、望んだ謝罪を得られないこともあります。

その喪失を認める作業は、怒り続けることより苦しいかもしれません。

しかし、得られなかったものを得られなかったものとして悲しむことができて初めて、別の人に過去の借りを支払わせる反復から離れられます。過去をなかったことにするのではありません。過去の痛みの宛先を確かめ、現在の人間関係を過去の取り返しに使わないことが、「すみません依存症」から抜け出す第一歩になります。

 

院長プロフィール

川崎沼田クリニック 院長
日本精神神経学会 専門医

沼田真一

沼田真一

平成12年、秋田大学医学部卒。
同年東北大学医学部精神科に入局後、東北会病院(仙台)嗜癖疾患専門病棟にて併行研修。
平成14年、慶應義塾大学精神科医局に移り、同時に家族機能研究所・さいとうクリニック(東京・港区)で研鑽する。
平成16年、財団法人井之頭病院(東京・三鷹)で、アルコール依存症専門病棟担当医。
平成17年よりはさいとうクリニックで、アルコール依存・摂食障害・DV(虐待)・ひきこもりなど家族問題と精神疾患に従事する傍ら、産業医としての診療や各種のハラスメントなど組織内の人間関係問題に対する相談業務を担う。

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