7Sep
前回は、「煽り運転」における心理状態 (衝動励起) の流れを示しました。このあとは、煽り運転の流れにおける心理学用語の解説、「敵意帰属バイアス」の説明します。まずはバイアスの生じ方について述べ、次項にて煽り運転への結びつけとします。
敵意帰属バイアス(hostile attribution bias)
この用語は「敵意」「帰属」「バイアス」と三つの用語のセットですので、基盤となる下の用語、つまりバイアスから示します。
ここでいうバイアスとは心理的なバイアス、つまり物事への捉え方に偏りが発生することを意味します。まず物事の捉え方は、来たる刺激と捉える側の心理状態や事情によって決まっていきます。ここで捉える側の前提によっては、生じている事実や出来事を、拡大したり歪んだ解釈をしてしまうことがあります。これを心理的バイアスといいます。
日常的に得ているCMでも、いわゆるオレオレ詐欺でも、その刺激に対して響く人と響かない人がいます。これは受け取る側の前提があるからです。CMでは「私に」必要なモノという受け取り方として、ある意味見境がついています。しかしオレオレ詐欺のようなものはどうでしょうか。決断に対する締め切りを感じさせたうえで、「~しないと○○になってしまう」と動かなかった時の「後悔」を連想される仕組みとなっています。(ちなみに私はこのフレーズを英語を使って “otherwise/さもなければ” 妄想と呼ぶ、煽られの典型です)。さらに近親者という愛着や責任感をイメージさせるを対象にしたときは、後悔に対する不安を抱きやすいという前提があります。
後悔を連想させて正義感へ (バイアス)
煽る時に後悔をイメージさせることには、また一つ理由があります。放っておいた時に生じる「人としていいのか?」と道徳観を問われるような錯覚に持っていけるからです。これは実は煽られる側の過去の体験と、その時の感情の押し殺し具合によって幅が生じますので、押し殺す必要が少なかった場合は、煽られに見境がつきやすくなっています。「ちょっと待てよ」と距離をとれるのです。従ってここでの押し殺した体験、すなわち「トラウマ体験」の是非がポイントになってきます。
さらに動きとしては、後悔を避けるために強迫的になります。強迫性障害とは、後悔に対して過敏になっている状態とも言えます。煽りは大抵相手が動くように仕掛けますが、最たるものがこの「動かなかった時の後悔」を連想させることです。そしてさらに後悔と懺悔を想像させられる煽られ方をされた場合は、「私だから」を飛び越えて、「誰でもそのようにするのが当たり前」と私の行動を「正しい」として拡大解釈しています。
従って最近ではATMにも張り紙で予防しているものの、例えばオレオレ詐欺の被害者は前述のように「後悔を避ける」思いから「正義感」として動いているため、既に決めつけてしまっています。例えば現場の金融機関職員との間でもめたりします。この「動かなかった時の後悔」を刺激させられる素因が、実はそれまでのトラウマ体験に由来しているのです。
これをまとめると「トラウマ (釈然感のないまま受け入れた体験)」+「後悔 (行動しなかった時の不利益を再連想)」=「正義感として強く認識された行動」となります。
最後の項は、煽り運転の例に戻って「帰属」と「敵意」の部分です。
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最後に
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