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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

「倍返し」の魅力 (後)

 
 
 

今回は前回の心理的な基礎の理論を経て、「倍返しの理由」にあわせて、実は倍返しは倍返しではないという心の基準を持ちがちなことからの、社会との新たなこじれについて述べます。

〇 「倍返し」の心の基準は「4倍返し」

前回の「倍返し」の話に戻りますが、前述した「プロスペクト理論」により、「損失体験は利益体験の2倍大きく感じる」ことになります。従って前述したお金を簡単な例として出すと、1000円の損失が2000円の損失に感じます。ここで「だから今度は倍返しだ!!」という感覚に至ることは簡単に乗ってしまいそうですが、実は2000円を取り返したくなるわけではありません。

実は「取り返す」ときには、損失の埋め合わせ「自体」を基準にして倍返しとなります。従って本格的にプロスペクト理論の2倍損失観念をそのまま使って、「あの時あのような被害を被った」という過去の損失体験を、新たに埋め合わせようと思った時には、お金で換算すれば1000円の倍ではなく、あくまで「損失したと感じている2000円の倍」である、4000円の基準を欲しがるということになります。

〇「倍返し」は「天井知らず」まで

ここには、損失した瞬間にリターンをするということではなく、損失と取り返しの時期が離れている場合には、倍返しの数字が大きくなる傾向があります。そしてあまりにも過去過ぎて折り合いをつけることが出来なかった場合には、相手を変えて取返したいと思います。「江戸の敵を長崎で討つ」は心情的にはよくあることですが、これに加えて私が被害を被らされた加害者人数よりも倍返しを求めます。つまり何倍もの多くの人数を相手にして、取り返したいと思うことになります。

従ってこれが高じると人数も時間も「天井知らず」になります。解決を求めに行かないやりとりである、俗にいうパワーハラスメントや女性の職場でのお局、カスタマーハラスメントなどの事象は、終わりがないことがむしろ大切になっていたりします。

最後に紹介した理論の話に戻りますが、このように過去のいじめや虐待など不合理な体験を複合的に味わった機会が多い場合には、目先の損失体験に対して、プロスペクト理論なる勘違いの由縁である「自分が悪い」という思いに駆られやすくなっています。その結果元々の基準であった1000円がどこかに行ってしまうので、2000円からの取返しになります。

一方通行 標識

心理的合理化の影響

このように実は「倍返し」といっても「2000円分の取返し」では償いにならないと考えることが、この認知バイアスです。ドラマの場面になった組織上の人間関係での理不尽さの「倍返し」は、実は「4倍返しでトントン」という思いに駆られるのです。

またトラウマ体験が多いほど、この倍々指数は大きくなるため、現在の人間関係の中で取返し願望が大きくなり、過去体験とは全然脈絡がない目先の人間関係を生き映して支障を与えることに繋がりかねません。このように、過去の辛辣で理不尽をそのまま受け取らざるを得なかった体験は、物事をフラットに捉えることを得てして阻害する方向に働きます。

〇おわりに

ちなみに、境界性人格障害(Borderline Personality Dissorder)という診断もあります。これは9つの状況に伴う診断基準はありますが、私は心理的な意味として以前より、「過去と現在」「私と他人」「現実と夢」「事実と感情」などにおいて、適切に境界(見境)をつけることが出来ず、様々な事象に対して過去とオーバーラップして紐づけて考えてしまい、先走ってしまう様子を表しているものと考えています。

トラウマは自分由来で生じることはありません。思わぬ体験が自分由来で保生じているのならば、ここは前述の様に見境がついていますので、重ね合わせることは少なくなります。トラウマの治療とはこの体験をすり合わせ、過去に見境をつけられる機会を設けていくことが大きな目的になります。

今回は「倍返しは実は4倍返し」を目指しがちであることを例に挙げ、様々な認知バイアスは過去の辛辣な体験でもたらされることを取り上げました。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
神奈川県川崎市川崎区砂子2-11-20 加瀬ビル133 4F