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加害者は元被害者 (前)

 
 
いじめ
 

加害者治療の重要性

精神科治療の一つに、加害者治療というのが徐々に出てきています。最初はDVや児童虐待など身体的な攻撃衝動に始まり、次第に心理的な虐待、いじめ、そして万引きや住居侵入や痴漢などの性衝動に対して、様々な治療が行われています。主にグループ治療が多いですが、全体としてみるだけでは限界があります。加害者の背景が無視できないからです。そこで、根元やマグマの部分の吸い上げは個人事情として捉えていく必要があります。

もちろん社会的に加害行為が許されることはありませんが、得てして加害行為は過去の被害体験が基底になければなりません。例えばパワーハラスメントのように、過去の被害体験と同じ行動でやがて加害者になりうることもありますが、現場では過去の様々な被害体験を移し替えての加害行為に至る場合もあります。

今回は被害体験の蓄積によって心が過剰反応して、加害行為に移る流れを煽り運転を題材に示していきます。途中キーワードとして「敵意帰属バイアス」という心理学用語を取り上げます。

煽り運転と敵意帰属バイアス

先日、車が通らない道幅の横断歩道を渡っていた際に、直進自転車と接触しそうになりました。まず自転車の壮年の男性が叫び、横断歩道と示したら、男性は次の言葉を発せず行ってしまいました。

今回はこのように予想外の場面が生じた際の暴言の心理について、最近取り上げられる「煽り運転」を例に、加害者の心理の流れを示していきたいと思います。

「人間は運転中に本音が出る」は、少なからず感じると思います。運転は刻々と状況が変わる中で、ルールと状況を読み、判断を先送りできません。また犯せば罰則もあります。このような環境から、運転は体験や過去を重ねやすい構図になり得ます。

今回は煽り運転になる理由の一つ、「割り込み」を例にとります。片側二車線の道路で、左車線を走っていた車の前方に、右車線から車が入り込んできたとします。特に右車線には車がおらず、割り込まれた車は理由がわかりません。

このように相手の意図への情報が連想出来ないときに、まず「何だろう?」と思考の距離が取れれば、「次の交差点での左折を考えて今から車線変更しているかもしれない」など、「もしかしたら」を優先できます。「私の分からない何か事情があるのかな」と未知な情報を探る余裕があります。

理解できない

「被害者意識の高ぶり」が煽り運転を招く

しかし煽り運転に至る場合ケースでは、相手の意図が分からない場面において、過去に自らが体験して会得した考えを優先する性質を帯びています。そしてその考えは激しい感情を伴ったもので、「私が運転が下手だから思い知らせようとしている」などの被害者意識として現れます。もちろんこれは過去体験による飛躍した考えですが、人間は罪悪感を感じると、次の瞬間「合理化」といって「私は悪くない、お前が良くないから」という正当化を作ります。これが煽り運転の駆動となります。

このように煽り運転は、被害者意識の高まりによるもので、加害欲求から始まるものではありません。むしろ「私は悪くない」を証明したくて「どういうつもりだ」と迫ります。煽り運転の行為自体の罪意識が薄くなるのも、実は「私は何もしていないのにやられた」という過去の体験が伏線にあります。よって「~しただろ!!」と迫ることになります。実際に理不尽に迫ってきたのは、過去の誰かなのですが…。

対人関係トラウマは「蔑ろにされる怖さ」をもたらす

このようにトラウマは当時の辛辣な体験と重ねやすくし、否定感情の感度を高め、「あの時と同じ思いを私に味わわせるのか」と先走った行動をもたらします。加害者はこの被害者感情の敏感さに気付きにくく、「相手が先にやってきた」と言いますが、一旦クールダウン後は「そこまでするつもりなかった」となることが多いです。トラウマ体験のオーバーラップは、瞬時に現れて継続性は少ないからです。

このように煽り運転とは、過去に遭遇したような自責感を再び味わいたくないために必死に消し去ろうとする行為とも言えるでしょう。これはリストカットなど自傷行為の際の想いに似ています。

特に対人関係上のトラウマは「蔑ろにされる」ことに対する抵抗は、様々な衝動行為に発展します。このような煽り運転に加え、SNSや銀行・役所、あるいはコールセンターなどへの誹謗中傷衝動もあります。

このように「私は悪くない」と思わず叫びたくなる衝動に駆られる様々な出来事はトラウマ由来を考慮しますが、後半では心理学・行動経済学用語の「敵意帰属バイアス」を用いて紐解きます。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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