3Nov

◎記事要旨◎
家族関係で安心して頼る経験が欠けると、頼りたい人ほど責めてしまうという逆転現象が起こります。これは信頼と恐れの葛藤から生じ、攻撃の裏に「見捨てられたくない」という深い願いが隠れています。
家族関係で安心して頼る経験が欠けると、頼りたい人ほど責めてしまうという逆転現象が起こります。ここでの攻撃は「関係維持の試み」です。
はじめに
「頼りたい人ほど、なじってしまう」。そんな自分の反応に戸惑う人は少なくありません。信頼したいのに攻撃してしまう、この逆転した行動の裏には、家族関係で育まれなかった“安心して頼る力”が関係しています。今回は信頼と恐れの葛藤を、転移・逆転移・対象関係論の視点から解説します。
頼りたい人ほどなじってしまう心理構造
家族関係の問題が整理されないまま心の中に残っていると、人は「頼りたい人ほどなじってしまう」という逆転現象を示すことがあります。
本来であれば、頼りたい相手には近づき、良好な関係を築こうとするのが自然です。しかし、幼少期に親との関係が不安定であったり、安心して甘えられなかったりした人ほど、「信じたいのに信じられない」という相反する感情を抱えやすくなります。
このような人は、相手に対して心を開こうとするほど恐れや緊張が高まり、「裏切られるかもしれない」「拒まれるかもしれない」という不安を防衛的に打ち消そうとして、結果的に相手を攻撃するという形を取ってしまいます。
これは心理学で言う「転移現象」の一種です。過去の重要な他者(多くは親)に対する感情が、現在の人物に投影され、まるで親に接しているかのように反応してしまうのです。
「なじる行動」に含まれる逆転の力学
たとえば、上司や社長といった「頼らざるを得ない立場の人」を強く批判するケースがあります。「この人に嫌われたら自分の居場所が危うくなる」と理性では理解していても、感情の奥では「見捨てられる前に自分から攻撃しておこう」という防衛が働くのです。
これは、かつての親との関係の中で「頼ったら裏切られる」「安心した瞬間に突き放される」といった体験を繰り返した人ほど顕著に見られます。このような行動は一見、反抗や挑発のように見えますが、心理的には「関係を維持したい」という願いの裏返しです。相手を攻撃しながらも、「それでもあなたは私を見捨てないでほしい」と無意識に試しているのです。
ここには逆転移的(countertransference-like)な構造も含まれます。つまり、相手の側(上司や医師など)もまた「なじられているのに見放せない」「理解してあげたい」と感じ、関係が感情的に巻き込まれていくのです。

対象関係論から見た「頼ることへの恐れ」
対象関係論の立場では、人間関係の中で「良い対象」と「悪い対象」が統合されないまま残ると、他者への認識が極端に揺れ動くと考えます。「頼りたい人=怖い人」「優しい人=裏切る人」というように、相反するイメージが統合されず、安心と恐れが同時に存在してしまうのです。
この状態が長く続くと、信頼関係を築く場面で「試すような行動」「境界を越えるような言動」として表れます。臨床では、こうした行動の背景にある「信じたいのに怖い」という葛藤を理解し、表面的な言葉や態度に反応するのではなく、その奥にある“信頼への希求”を受け止める姿勢が求められます。
依存的なようでいて実は見捨てられることを極度に恐れる人にとって、「頼れる関係」が初めて成立することは、治療的にも大きな一歩となります。
まとめ
頼りたい人をなじるという逆転現象は、単なる性格や反抗ではなく、「親との関係の中で安全に依存する経験を持てなかった人」が、無意識に繰り返してしまう行動パターンです。これは、信頼を得たいという願いと、再び傷つくことへの恐れとのせめぎ合いの結果として現れます。
この構造を理解することで、私たちは“攻撃的な人”を単に避けるのではなく、その背後にある「助けを求める心の動き」を見出すことができるのです。
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