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    川崎沼田クリニック

アルコール依存症治療「三本柱」を掘り下げる・②

 
 
 

前回の「その1」では、アルコール依存症治療の三本柱とその順番に対する考察を踏まえました。改めてアルコール依存症は症状の病よりは「衝動の病」が中核です。よって当事者が「その気になる」ことが必要で、逆に周囲や我々援助側からみれば、当事者に「その気になってもらう」という視点が必要です。これはまさに購買の流れとほぼ変わりません。

よって今回は三本柱をマーケットの視点と治療の観点から掘り下げていきます。そこでは例としてそれこそ「酒」の売り方を取り上げます。

〇 自分をさらけだす作業が、最初から必ずしも必要ではなくなった

まずは現状を回顧していきましょう。

SNSを主な変化とした時代の流れもあり、いまはアルコール依存症として自らをさらけ出さなくとも、アルコール依存症治療の情報は十分得られます。それこそ口コミサイトではないですが、物陰に隠れつつ相手をのぞき込んだり、時には批判することすら可能になりました。

もちろん治療ですから、自分自身の状態を照会して臨んだ方が、より大きな情報や個別性への対処機会を得られるでしょう。アルコール依存症も個々の前提によって悩み方が異なるため、「個別事情」を掘り下げる必要は出てくるからです。

しかしそれでも、情報の取り方が昔とは変わりました。

またアルコール依存症は対人関係が希薄傾向にならざるを得ない中、なおさら自分をさらけださずにして情報取得機会が生まれたことは、治療導入には有利に働くでしょう。これからアルコール依存症に悩む方やその家族は、次第に自助グループから入っていった方が、抵抗が少なくて無難ではないかとすら感じています。

そういえば最近ではコロナ啓蒙に絡めて、ナッジ (大人の象は、その鼻の柔らかなタッチで子ども像を誘うという例で示されます)という用語も再度流行してきました。昔からある購買視点の「AIDMA理論」を簡素化したものといえるかもしれません。

コミュニティー

〇 (買わせる手法-1) : 花火で「一体感」を植え付ける

まず通常新しいモノを売るためには、まず「購買抵抗を少なく感じさせる」という視点となります。ここでアルコール依存症治療の話ですが、まさに酒を「売る側」の事情を例として「ハイボール」を取り上げます。

ハイボールは当時急激に消費が伸びて、現在でも酒の一つのカテゴリーとして定着している種類でしょう。ここで新しいものを売るには「花火」のようなマスマーケティングで「知ってもらうこと」と、「その人にとっての特別感を生み出す」地味な作業の両輪が必要なようです。

前者の代表はもちろんCMです。これは「既視感」を与えるという効果があります。特にテレビは今でもまだ「王道な」訴え方で、視聴者にも「主流感」(裏を返せばレアではない私)をイメージ付けます。

特に日本のようにほぼ単一民族国家は同調圧力が強いため、レアなことで周囲に知られて「ハブられる」ことを嫌います。まだまだ日本は「他人は他人、自分は自分」になりづらいところがあるでしょう。これが物事への変化を嫌う一因にもなっています。

テレビCMは私の知らない大勢の人にも同時に訴えかけているという前提を視聴者が持つことから、見ただけで「主流派」感覚まで誘う効果があるでしょう。昔の言い方をすれば「官軍」になれるということでしょうか。

〇 (買わせる手法-2) : 「動いた私へのご褒美」を感じてもらう

さて一方で花火はあくまで最初に手に取ってもらうことはできますが、リピートにはつながりません。繰り返し手に取ってもらえるには、個別に訴えかける戦略が必要になります。

そこで酒場ではハイボールを頼むと、当時は時に「ハイボール」と銘打ったジョッキで提供されました。これによって今度は注文した「私」に対しての特別感を与えます。しかも「そっと」です。

これが前述したナッジ効果の一つです。

なるべく気づかれてはいけないのです。気づかれてしまっては白けてしまいます。相手の事情によっては警戒心や猜疑心、あるいは「俺を馬鹿にするな」という意地や見栄が出てくるからです。

このように花火で「私は主流」(あるいは間違っていない)感覚を与え、実際に酒場に行けば「あなたは(その他大勢とは違う)大切な人」という個別に訴える特別感と入り交えることにより、「馴染み」なものと受け取ってもらえるようにしていきます。

(その3では、アルコール「三本柱」に絡めてまとめます)

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
神奈川県川崎市川崎区砂子2-11-20 加瀬ビル133 4F