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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

摂食障害の治療過程での性的虐待トラウマの関連性

 
 
 

摂食障害は「止めることを目指せない」アディクション

以前嗜癖行為の一覧本の中で、監修者から食べ物依存と摂食障害の項目の一般本の執筆を任されたことがありました。改めて摂食障害だけに関する特徴があり、自助グループや関連団体や支援の必要性、家族関係との強い絡みなど、深刻なところを書かなければならなかったことがあります。

様々な行動嗜癖や依存対象がある中で、摂食障害だけに特徴的なのは、「すべてをやめるわけにはいかない」というところです。薬物や酒、とあるいはギャンブルやゲーム、身近すぎるネットやスマホ依存でも、極端な話は期間を決めてでも止める、あるいは永久に使わないと選択も出来ます。しかし、摂食障害は当然食べ物ですから、やめるという行為がありません。

これはアディクション治療の中では新鮮なものです。最初から中途半端を目指さなければならないということは、特に初期支援の中では見境がつかなくなりがちかもしれません。

「吐くこと」だけはやめられるでは?

もちろん「吐くことだけは完全にやめられるのではないか、そこを目標に出来るのではないか」という意見もあるでしょう。

確かに「生きている実感を吐くことで得られるため、そもそも吐くために食べる」という人もいます。しかしこの場合は、生きている実感を持てる別の何かを作ることで解消できると当事者も自行為の動機自体が腑に落ちるため、たとえすぐに代替対象が見つからなくても、吐いている自分に折り合いがつけられます。

そしてその折り合いがついていれば、不必要な自責感が励起されることがありません。自責感が感化されなければ、「自分や周囲を攻撃する」といった新たな辛辣な嗜癖行動に波及しなくて済むので、さらに不本意さが高まっていく迷惑行為にもなりません。「この行為は今の私には必要なことである。いつまでも必要というわけではないけど…」というところで、大切な「とりあえず」の折り合いを目指せます。

「とりあえず」を目指す

考えてみれば嗜癖行為をせざるを得なくて悩む方にとって、「とりあえず」というのはとても大切なことではないでしょうか。親子関係や人間関係の理不尽な出来事の影響で、決断や行為の中で境界線がつけられないこと、つまり「ほどほどがわからない」から過ぎてしまっているのです。

しかも何事においても、「直ぐに完ぺきに」を目指さなければならないと感じてきた人です。「とりあえず」を目指せれば、このこと自体が新鮮な出来事に感じるはずです。

「食べ物を取り入れるのが怖い」から「吐きたい」場合

「食べたい、でも食べ物を取り入れることが怖いから、吐きたい」というケースです。これにもいくつかの次元があります。まずは極端な痩せ願望など、ボディーイメージのゆがみがある典型的な摂食障害の場合です。

繰り返しになりますが、摂食障害は依存対象が食べ物だからと言って、食べる行為を止めることは目指せません。これが他のアディクションとの違いです。よって食べること自体は最初から程度の問題で入ることになります。(ちなみに最近はネット依存などもこのように断絶を目指さないというものもありますね)

しかしこの場合は、「痩せ願望」というある意味しっかりとした根付きがあります。(ネット依存でもだらだら、暇だからというのはありません。例えば「取り残されてしまう」など必ず強迫的な考えが潜んでいます)。当事者が主張する譲れないところにピントを合わせ、かつある意味「不思議がりながら」(これが本当の共感と思います) 掘り下げていければ、どこに無理やムキがあるか、誰から教わったかなど、アディクション治療の転機として訪れる「妥当性検討」が出来るようになります。

性的虐待トラウマとリンクしないように…。

ガッチリとやめさせるということが、アディクションでは評価になるような気もしますが、よほど内部の方が重要です。核といってもいいでしょうか。「何も譲らずにして、本人にとっても実は不満足な行為を続けている」となると、実はこれは最も苦しいことになります。

話が飛ぶのですが、この苦しみを味わわされてしまっているのが、性的虐待の被害体験です。性的虐待は「何も譲れない」なかで起こっているので、とても辛辣な出来事なのです。実は摂食障害の型には、性的虐待被害体験者が多くいます。境界性人格障害に波及している人もいます。アディクション治療の中ですら「譲ってもらえない」という体験は、性的虐待被害に重なってしまうことがあります。

よって上述している通り、アディクション治療にはことさら「折り合い」ということが重要になります。もちろんアディクション治療はそもそも人間関係の再構築がモットーですから、治療の中で「患者さんに譲ってもらえる部分は、あえて譲ってもらう」機会を作ることもあえて大切にしています。

「どうも悪いですね、すみません」と言いながら…。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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