3Feb
こんにちは。
川崎市内で心療内科の医師をしております沼田と申します。
今回は、アルコール依存症における飲酒量低減を効能又は効果とする国内で初めての薬剤「セリンクロ」について詳しく解説していきます。
ナルメフェン(セリンクロ)の注目
2019年3月、アルコール治療(アルコール依存症など)の薬剤として、飲酒量低減薬ナルメフェン(製品名:セリンクロ )*錠剤が発売されました。現在ではだいぶ広がりましたが、当時、川崎市で発売当初より処方可能だったのはアルコール専門医と認めて頂いた当院だけだったようです。このセリンクロは、当院のアルコール問題治療スタイルにはコチラの薬の使用は、合っているように思えます。
不本意ながら飲んでいる”アルコール問題”
一般的に、精神科では症状と衝動の問題を診ますが、こと衝動の問題は火山の爆発のようなもので、いまの問題に対峙する手数が少ないからこそ、結果的に一つの噴火口にエネルギーが集約した結果と考えています。もちろん摂食障害やリストカットなどの自傷、薬物、児童虐待など、様々な衝動行為他をまたぐクロスアディクションの例もありますが、それでも「早く、確実に、思ったとおりに自分を導ける」とイメージできる方法が少ないことが根本であると考えています。
よって私の外来では、あまりアルコールやアルコール依存症の話は出てこないと思います。もちろんその話題になればお聞きしますが、基本的には鬱憤や振り返りです。アルコールは鬱憤を飛ばす手段に過ぎないから、そこまで話は拡がるはずはないのです。一方心のうっ憤の方には、必ずと言っていいほどこれまでの本人の人間関係の影響が加味されています。
セリンクロより、「振り返り」に入りやすい
今日は薬の話ですが、セリンクロは飲酒の1-2時間前に服薬して、次第に飲酒量を下げていくという触れ込みの薬です。これまでと大きく異なるところは、従来のように断酒していないという人が堂々と外来にやってきます。よって実際の外来では、酒を飲んでいる自身を振り返りながらの話になります。
これまでのアルコールの治療では、まずは断酒ありきでした。これは通行手形のようなものでした。そしてその断酒の後に、「そもそも私はなぜこれだけ酒を使わなければならなかったのだろう」と遡及していきました。よって、少なからず「酒を飲まない」という下駄を一時的にでも預けてもらう必要があり、こころの発散の手数が少ない本人にとってはまさにこれがプレッシャーであり、また二の足を踏む点でした。
自分の心や体を壊すというリスクを負ってまで飲酒しているということは、身の回りの様々な出来事に伴う感情をのみこんだり、発散したりするために酒を使っています。それにもかかわらず無条件に「まず断酒」とされてしまうと、確かに全うで文句の言いようはないのですが、本人にとっては我慢の厚塗りになりかねません。
またそもそも衝動行為にならざるを得ない背景には、「周囲が勧めたことを信じてやってみたら裏切られた」という伏線を多数抱えています。よって本人にとって数少ない成功体験を繰り返す中で、曲がりなりにもこころを保たせている状態が嗜癖行為なのです。
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