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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

【こころのおくすり】こころの不調に対するお薬の立ち位置

 
 
 

今回は臨床現場における、こころのおくすりの説明です。世の中にはたくさんの本があり、さまざまな情報がありますが、今回は3つに分けて述べます。

こころのおくすり①「浮き袋」としての薬

精神科・心療内科領域では、症状とともに「衝動」も診ます。特に衝動行為で悩む患者さんには、「どのような状態になったら薬は必要ですか?」と訊かれことがあります。なにぶん目に見えないこころの不調における服薬の是非については、次のような例えをしています。

ひとつは、薬は「浮き袋」です。心の不調の時は知らず知らずのうちに、泳ぎ方が立ち泳ぎのようになっていたりします。このような時はそのまま一人でもがいても限界があるため、薬という浮き袋を使って水底に沈まないようにします。このようにすることで、少なくとも水面が見えるような位置に保ちつつ、次を考えて行くゆとりが生まれます。

実際には「抗うつ薬」「気分安定剤」が、このような立ち位置として使われます。人間関係などにおいて不本意な波が来てからの対処では間に合わない、あるいは復旧作業に時間や労力を費やしすぎることでわ、自分をどの方向に導いていくかを考えるゆとりを削がれる可能性を憂慮する場合は、「浮き袋」を使って対応する方が無難と判断します。もちろん「浮き袋」を身にまとっていることで、自分が行っている現在の泳ぎには若干違和感を覚えることはありますが、リスクの取り方の一つです。

こころのおくすり②「ライフジャケット」としての薬

二つ目は「ライフジャケット」です。これは飛行機に備わっているものを想定して頂ければと思います。車でいえば「エアバック」に例えて頂いても構いません。これらのものは、最初から身につけているわけではなく、自分の身の回りに置いておき、波をかぶってから対処するものです。  

こちらのものは「精神安定剤」「睡眠薬」があてはまります。特に精神安定剤は頓服の使い方もあります。症状が生じる場面や時間が予め想定できる適応障害やパニック障害に用います。上述の浮き袋の役割をと果す薬と違い、普段から身に着けている違和感を覚えることはなく過ごせますが、一方で波風に遭遇して、それらの状況に対応するために服用するので、そもそもそのような不安や不眠の感覚に陥りたくないという方には向きません。

これらの薬を波風に遭遇する前から服薬していれば良いのではと考えて、「浮き袋」の薬と同様に症状が出現する前から自然に服用しておこうと試みる発想に駆られることがあります。しかし精神安定剤や睡眠薬に対するこのような「浮き袋」的な使い方は、次第にいつもの量では効かない感覚に苛まれ、よりたくさんの量を欲しがる流れをもたらすことがあります。これを薬に対する「耐性」といいます。

人間のこころの中

こころのおくすり③「補助輪」としての薬

最後に自転車の「補助輪」という意味合いの薬があります。これはペダルを回す力が一時的に弱くなっている、あるいは以前より世間の風が強い状況の時は、今まで通りにペダルを漕ぎ続けているつもりでも前に進まないため、二輪である自転車は横に倒れてしまいます。この場合は補助輪でアシストすることにより、前に進まない状態でも倒れないようにするという役割です。

この補助輪の役割としては「抗精神病薬」があてはまります。

まとめ

「浮き袋」としてのおくすり「ライフジャケット (エアバック) 」としての薬「補助輪」としての薬
抗うつ薬、気分安定剤精神安定剤、睡眠薬抗精神病薬
こころのおくすりの役割一覧

例えば「浮き袋」や「補助輪」は、付けなくても良い状態であれば、付けない方が本来の泳ぎ方や漕ぎ方に近くはなります。従って ”もがかなくもよい状態” ならば、薬が使わない方が充実する場合もあるでしょう。しかし「このまま行ったら不本意な沈没や転倒が想定される」場合は、例えいまは若干スピードを落とすことになっても、以前に感じた不本意な様子や思いが再現されないように薬を使う方法もあると考えて頂ければと思います。

薬を使うにせよ使わないにせよ、何よりも「やったことが報われない」という想いに駆られることは避けたいと思っています。なぜなら釈然感のなさが、次のステージに向き合うことを阻む大きな要因になりますので…。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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