16Sep

今回は共依存の前提がどのように変わってきたか、時代を経る形で考察します。
「事後処理」から「事前処理」への変化
かつて共依存というと、アルコール依存症の夫を持つ妻の例が代表的でした。酒に酔った夫に振り回される妻は、「仕方なく後始末をしている」という事後的な行動が注目されていました。その背景には、「良い妻とは夫を支えるもの」という時代的価値観や、女性に求められる“器量”のようなものが影を落としていたと考えられます。
つまり、共依存とされる妻の行動は、基本的には「夫が酒を飲んだ後」の尻拭いであり、行動の主体性よりも結果への対応が中心でした。妻は「言っても飲むから仕方なく動く」という姿勢で、眉間に皺を寄せながら後処理を繰り返していたのです。
「先回りする共依存」: リスク回避型の支配と変化する態度
ところが、最近の夫婦や親子の関係性を見ていると、共依存のかたちは確実に変わってきているように感じます。共依存の行動が“事後”ではなく“事前”に移行しているのです。たとえば、飲酒問題が本格化する前の段階から、「○○しなくていいの?」と妻が夫に声をかけ、あたかも母親が子どもに注意するような形で、未然にトラブルを回避しようとするケースが増えています。
このような行動は、親が子どもに対してリスクを学ばせるための促しと似ています。しかし相手が大人である場合、こうした「先回り」の態度はしばしば非難や管理と受け取られ、関係がこじれる原因にもなり得ます。
その一方で、情報が容易に手に入る時代背景や、都市部を中心としたリスク回避傾向の高まりなどを背景に、「先回りして支配すること」自体に価値があるとされる空気もあるようです。共依存的行動が、もはや“尻拭い”ではなく“予防的配慮”として肯定されているような様相を呈しているのです。

診断に頼る「共依存の延長線」 : 夫に発達障害の診断を求める妻のケース
この「先回り型」の共依存の一例として、診察場面でよく見られるのが「夫が発達障害ではないか」という訴えをする妻の存在です。夫婦関係がぎくしゃくしてくる中で、「もしかして夫は発達障害では?」と疑い、診断を求めるケースがあります。
もちろん、実際に発達障害の可能性がある場合もあります。しかし一方で、発達障害に当てはまる部分だけを切り取って「夫はそうに違いない」と結論づけてしまうケースも少なくありません。そして、診断が否定されると納得せず、いわゆる「ドクターショッピング」が始まることもあります。
その結果、夫が精神的に疲弊し、現実逃避として酒に手を出してしまえば、今度はアルコール問題が前面化します。私はこうしたケースで、疲れ切った夫に対し、「とりあえず“発達障害かもしれない”ということにしておきましょう」と提案することもあります。一旦そのようにして妻の不安を落ち着かせれば、次に「なぜこの人と結婚したのか」「あの頃はどう思っていたのか」といった、本来の分岐点の話へと進めやすくなるのです。