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ミュンヒハウゼン症候群と代理ミュンヒハウゼン症候群

  • 2022
  • ミュンヒハウゼン症候群と代理ミュンヒハウゼン症候群 はコメントを受け付けていません
 
 
ナース
 

ミュンヒハウゼン症候群とは

ミュンヒハウゼン症候群とは、症状を呈するような行為を行い、周囲に救済を求めていく衝動をおこす病気(精神疾患)の名称です。これは虚偽性障害 (詐病=偽りの病気) のような、訴えだけで弱者を演出するよう試みるのではなく、医療上のデータにも明確に影響するような行動を呈します。

精神科領域の疾患ですが、特徴として身体に影響を与える行為の為、身体科で発見されることが多いです。例えば「貧血を訴えているが、実は家で自ら注射器で血液を抜いている (瀉血といいます)」「糖尿病のインスリン注射を規定量以上に自ら打ち、低血糖になって救急受診する」などです。

日本小児科会
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/abuse_8.pdf

いずれも実態としてデータ/情報にも出てくるし、状態像も貧血や低血糖と同様なため間違いではありません。しかし医師の思惑通りの臨床像にならないことから、本人の故意により生じているのではないかと疑われるところから始まるのがこの病気の特徴でもあります。

しかし、貧血も低血糖も一歩間違えると生命にかかわる状態です。従って不安や集中力低下などメンタルヘルス領域で弱者演出した方が無難ではと感じるかもしれません。しかしミュンヒハウゼンの当時者は「証明なきものは信じてもらえない」と切羽詰まっております。また貧血や低血糖などの、より重症性や緊急性が高い演出でないと、私に注目してもらえないという思い込みがあります。ちなみにこれを疾病利得と言います。

昔はこれを精神科領域ではヒステリー (俗に言われるきりきり舞いに怒っている状態を示す用語では実はありません)と呼んでいました。対してミュンヒハウゼンという病気は、いまから約20年前から少しずつ知れ渡ってきた言葉です。

代理ミュンヒハウゼン症候群とは

ミュンヒハウゼンという病気には、もう一つ、代理(型)ミュンヒハウゼン症候群というものがあります。これは弱者を作り、そこに寄り添う当事者が世間に弱者の状態を訴え続けるという状態です。

典型的なのは母と子どもの二人の間で生じる状態です。

過去に日本の大学病院でも話題になりましたが、「具合が悪くて入院中の幼い子どもに一緒に寄り添っていた母親が、医療者に隠れて子どもの点滴を適宜外していた」という症例です。母親は子どもの状態が悪くなることでナースコールを押し、確かに子ども具合が悪いのですが、点滴が予定通りに入っていれば考えにくい状態を呈していたため、医療者側が母親の故意を疑った事例です。

この症例では、「 “弱い子どもに向き合っている母親の姿を、周囲に関心をもってもらいたい ” という衝動に駆られている」とみなされます。よって子どもが回復しては自分の救済者としての立ち位置がなくなり、必要とされなくなるかもしれない母親は感じるため、子どもの病態が回復しないように図っていることになります。子どもを代理にして弱者にして周囲からの関心を惹こうとするため、代理ミュンヒハウゼンと呼ばれます。
(ペットで起こるケースもあります。)

虚偽による訴え
子どもに実際には手を出さず、存在しない症状だけを訴え続けるものです。症状を目撃、確認してい
る第三者はおらず、訴える保護者のみが観察している状況があります。子どもにとっての不利益とし
ては、不必要な検査や治療、保護者への不信感の形成などがあります。

引用元:日本小児科会

「見棄てられる」という怖さから

上述の2つのミュンヒハウゼンは、本人自らもしくは誰かを媒介にすることで、正当な立場で自分に関心をもってもらいたいとする衝動が共通点です。

しかしこれは関心が欲しいという衝動ではなく、黙っていれば周囲は私から離れていってしまうという、前述の「見捨てられ不安」の過剰に生じていることから来ます。つまり当事者の中に「人は私が黙っていれば私に不快感を持ちながら、離れていってしまう」という前提を持っています。

これは例えば親子虐待から得た感情の体験を、他の人にまで派生させて決めつけていることによるものです。「関心を得られないということは、存在している意味はないのだ」という発想に、次第に取りつかれてしまっているのです。

【ミュンヒハウゼン症候群について】まとめ

このように、たとえミュンヒハウゼン症候群のような病態とは言わなくても、過剰な反応や立ち居振る舞いの中には、「怖さ」が原点にあるのです。もちろんそれは思い込みなのですが、閉鎖空間の中に居続ければ、この思い込みを払拭する手段が得られないまま経過してしまうことがあります。

ちなみにミュンヒハウゼンを呈する人は、最初から強い思い込みをそのまま強く表現していたわけではありません。むしろ最初は何も言っても無駄と感じて我慢し、表現しなかった時代が伏線にあることが多いです。どこかで想像以上に関心を持ってもらえた体験を通して、極端に振り子が傾いて「離れられない」状態に執着しています。
そして、彼らは一度「傾いた」振り子が元に戻らなくする必要があるため、前述でも述べた日本の大学病院のような事件が起きてしまうのです。

このように、半ば本人も実体ではないとわかっているのに止められないのが、衝動の病です。

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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