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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

「言葉」は「本音」を言わない : 妻のDV事例を通して

 
 
 

今回は妻から夫へのDVの話です。少々かしこまったところから始めます。
また、「カスタマー・マイオピア」についても解説していきます。

「カスタマー・マイオピア」

 最近CMでも度々登場する行動経済学の用語に、「カスタマー・マイオピア」というフレーズがあります。マイオピア( myopia )とは「洞察力に乏しい」を示しますが、では「カスタマー・マイオピア」が「顧客のことを全く考えていない」と安直な訳にはならないようです。 

「マイオピア」にはもう一つ「近視」という意味があります。よってこの言葉は、「顧客の近視眼的な希望しか考えていない」と意味になるかもしれません。

これを学問的に訳していくと、「企業が世の中のモノやサービスを売り続けていくには、企業はいまお客さんが言うことを鵜呑みにし、その要望を叶えようと躍起になっていてはいけない」という忠告になるようです。つまり「お客がいま分かっていないことを先取りして掴んでいくことで顧客に感動を提供し、商品やサービスが売れていく」といったマーケティング方法が重要なのだそうです。

 私どもは日頃の人間関係で、このようなカスタマー・マイオピアの状態に容易に陥っていることがよくあります。身近なところでは、「目の前の人の願いを訊いていれば、その人間関係は丸く収まる」という想いです。しかしそれが思い通りに進まないということは、我々の人間関係の中で比較的簡単に見つけることが出来ます。

妻から夫への暴力の大きな特徴とは?

 家庭内暴力問題(DV)に、上述の「カスタマー・マイオピア」の心映えが顕著に表れていると思います。そしてここで述べたいのは、通常DVという言葉から想起される「夫から妻への暴力」ではありません。実はこのカスタマー・マイオピアがみられてくるのは、Buttered Manではなく ” Buttering Woman ”、つまり「妻から夫への家庭内暴力」の場合です。

 このButtering Womanの場合、あまり成功しない身体的暴力は少ないです。その代わりに顕著なのは、「男らしくない!!」・「小さい男!!」など無根拠に夫を「なじる」方法での暴力です。他にも「ざまぁみろ」を夫に感じさせるような嫌がらせや、見せつけとしての家事育児などの放棄などの方法がありますが、最も大きな特徴は「なじる」でしょう。

 ちなみにこの「なじる」は、とても高等なコミュニケーションテクニックとも言えます。なぜなら、なじったことにより被害者が「へこんでくれないと」意味をなさないからです。「なじることで言うことをきかせる」というのは、子どもへは通用しにくいのは想像に難くないでしょう。つまりこのやり方で成功させるためには、相手にも「へこませられた」ことで「相手に従う」という考え方の流れが必要になります。つまり「なじり」は、相手の自責感を利用しないと達成できません。よってDVを受ける夫側にも、同じ価値観が共有されていなければならない前提があって初めて成り立つのです。

妻から夫へのDVと「カスタマー・マイオピア」

 もう一つ、妻から夫への暴力の特徴は、身体的暴力にはなりにくく、又は身体的暴力でも著しくならない水準で防御できるため、「社会的に漏れにくい」ところです。

 この表に出にくいというところに、私は小難しい前述の「カスタマー・マイオピア」の流れが夫婦の中に生じているだろうと思います。つまり妻の継続的な暴言に対し、夫はまず訊きながら妻の要求を満たそうとします。仮に妻のDVが身体的暴力に発展しても、夫側はある程度耐えられるという余裕もあり、ついては「妻が現在考えている要求を出来るだけ満たしてあげれば、妻の様子はいずれ変わってくるだろう」と考えがちなことです。夫に妻の要求を満たせる様々な余裕があれば、結果的に妻の言葉に添うように動けてしまいます。

 しかしここで、実は妻の要求を満たそうとした結果、かえって妻のDVがエスカレートするという流れが生じます。もちろんこの特徴はDV全体に当てはまりますが、「満たしてあげているのになぜ止まらない」が、Buttering Woman DVの対応で夫が悩むところです。

DVには、目の前にいない登場人物が関与している

 今回はButtering Womanの例を出しましたが、実はこのような「なじる」の場合、その場で繰り広げられる言葉は本音ではありません。つまり、加害者側の目の前の要求が叶えられないからDVが起こっているわけではなく、本当は心の中にある想いが上手に言葉に変換できないゆえにDVが起こっているのです。そこにはどのように表現していいのかわからない「怒り」や「憤り」が潜んでいます。

 DV全体に言えることですが、「目の前の登場人物だけを相手に起こっているわけではない」のです。夫は、「妻の言っていることを叶えてあげていれば、段々と妻は変わっていってくれる」という妄想はなかなか捨てられません。実はButtering Womanの場合は、その欲求不満であり怒りの対象は目の前の夫ではなく、妻側の「育ち」の中での重要人物を相手にしていることがほとんどです。過去の体験から負った憤りを背景に、「この人なら私を幸せにしてくれる」に期待が膨らみ、結婚後その想いが叶っていないと憤怒する。夫の立ち居振る舞いから過去の辛い体験まで蘇ってきてしまい、DVのきっかけになってしまうのです。

 まさに「人間関係はアレルギー」です。過去に釈然としないまま受け取った辛い体験が、夫婦や育児など様々な人間関係に波及してしまい、過去と同じように反応してしまうという「こころの流れ」を見つめることが肝心です。

 妻のDVの症例に対しては、妻自身が見失っている視点をご主人と一緒に見つめていきます。それでも「私はどのようにしたら妻はよくなっていくでしょうか?」と尋ねるご主人は少なくありません。その時私はこのようにお伝えしています。

「ご主人のせいではありません。ご主人があなたではなく別の男性でも、このような暴力は起こっているでしょう」…と。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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