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    川崎沼田クリニック

【実家帰省したくない!】親に翻弄された方たちへ

 
 
実家帰省
 

今回は帰省にまつわる思惑から述べます。
あなたがいくつ歳をとっても、親にとってはいつまでも子どもです。(今はコロナ禍で以前よりかはタイミングが減ったとは思いますが)故にゴールデンウィークやお盆休み、年末年始など、帰省すると何かとストレスになる人も多いのではないでしょうか?この記事では「実家帰省したくない」の感情を心理学の観点から心療内科(精神科・メンタルクリニック)の院長が解説します。

実家帰省の憂うつ

憂鬱 少女

この時期外来の話題で多くなるのは「帰省」にまつわるものです。結婚後、配偶者(女性は特に夫方)の実家への帰省は妻にとっては気が重いものですが、もっぱら外来で取り上げられるのは、むしろ自分の実家に帰省する場合です。

実家帰省が嫌になる理由:第一段階 「もんだもんだ病」

母親 カメラ

例えば「地方に住む母親と、都会に住む娘」の事例では次のようなケースがよくあります。まず12月上旬までに年末年始の帰省を促す連絡が入り、まずここでいつもながら娘が憂鬱になります。母親は、 娘が帰省しなければならない理由を比較的簡単に出せます。「孫の顔を見たい」「お父さんも会いたがっている」「お墓参りがある」「いつまで会えるかわからないから」「あなたは母さんの子どもだから」などなど…。この中で母親が娘に提示しないのは「私が会いたい」と本音です。母親は私情は伏せて、「そうするもんだ」という流れを娘に想起させようとしてきます。
このような経験がある女性も多いのではないでしょうか?

これは若い頃から世間の風潮に押され、様々なことに挑戦することが出来ず、妥協を繰り返してきた母親によく出てきます。加えてこと地方 (田舎といったほうがいいでしょう) は「風習」を守ることを問われます。しかし考えてみればこれは個人の気持ちの問題で、実益は発生しません。それにもかかわらず、さも帰省の必須行動の理由にしてきます。このような上の世代からの「~しないわけにはいかない」「~はするものだ」という断定形を、私は「もんだもんだ病」と話しています。

このようなある意味伝統芸は、地方の親にとって有利です。本当は「親自身の」淋しさを解消したい」「自分の存在価値を確認したい」「帰省してこなかった娘は世間体として恥ずかしい」ためなのに、その本心を表沙汰にすることなく、「先祖」の存在を盾にできる機会です。

そして娘も断る手立てをもっていないので、このような母親の「もんだもんだ病」の発信に屈し、嫌々ながらも帰省します。しかし自己肯定感が少なく、ぶれる親とのふれあいには、帰省した後に手のひら返しが待っています。

実家帰省が嫌になる理由:第二段階 「おびき寄せておいて、叩く」

暴力 ストップ

さて、腕に勝る母親は無事娘の帰省を実現させます。渋々帰ってきた娘ですが、まず間違いなく帰省直後は大歓迎を受けます。この様子を見て娘は「あれ、もしかしたら今回は無事に過ごせるかな?」と期待をします。しかし問題は、お墓参りや孫を携えての親戚訪問など、いわゆるルーチンが終わってからです。

 世間に対する顔向けであるルーチンが終わった後で、母親の娘に対する「もんだもんだ」、つまり娘をまだ支配できるかどうかの確認作業が始まります。「娘なのだから」という看板で様々なことを押しつけ、娘が母応えられないとなると、途端に不機嫌になり、ともすれば「あんたなんか帰ってこなければよかった」と言い出します。(時には声をあげることもあるそうです。)この時の母親の拗ね方は得てして強烈のため、せっかくの年末年始にもかかわらず娘の心には「またか。でも仕方ない」という複雑な思いがこみ上げてきます。しかしもう身柄は実家帰省中で、簡単に雰囲気を壊してまで逃れられません。よって娘は渋々母親の機嫌に沿うように振る舞うか、父親など他の家族が間に入る形でその場を収めるということになります。

ここで肝に銘じて頂きたいのは、「こうなったら母親は一歩も譲らない」ということです。

「アンビバレント」が生じていく

理解できない

前半で「おびき寄せておいて、叩く」というフレーズを示しました。このように一転して反対の体に出てくるこころの動きを「アンビバレント」と言います。正式な心理学的な用語としては「両価性」と述べ、少々小難しい意味合いがありますが、これを実際の人間関係のやりとりに落とし込むと、「豹変」と称されるような関係性を示すでしょう。

ここで実家帰省の話題に戻します。どのような流れで実家の母親は、その時期になると娘に帰省を促しておきながら、いざ帰省してしばらくすると娘を敵視してしまうという豹変した態度を取ってしまうのでしょうか。

実は帰省に限ったことではないのですが、得てしてこのように一見訳の分からない手のひら返しが生じた場合は、”その場にいない人物の存在” を意識して頂ければと存じます。ここでは帰省して落ち着いた場面になるにつれて、母親の中に優先されてくる登場人物は、目の前の娘から移ろっているのです。

「墓からのメッセージ」に注意

お墓 メッセージ

つまり実家帰省場面では、帰省直後は母親の目には娘本人が映っていますが、時間が経つにつれ母親の親、娘から見れば「祖父母」の存在が意識されるようになってきます。その結果、母親の態度が豹変してきます。特に祖父母に大切にされた実感が少ない母親、あるいは姉妹間競争にさらされて育ってきた母親は、自分の両親に対し親離れ出来る機会が少ないため、自分の両親が目の前の状況にどのような反応を示すかを常に気にするようになってしまいます。これは親が持つひとつの癖です。

ちなみに子どもにとって親離れとは、成長に伴い隠し事やその隠し方の手数を増やしていくことでもあります。よって子どもが隠し事を仕掛けたチャレンジに親が過敏に反応し、他の従順な姉妹に目が向くリスクが高ければ、子どもは自分がないがしろにされる危険性が増すため、隠し事を躊躇するようになります。このような流れが、娘が親に支配されるようになる一因です

少々脱線しましたが、実は既に祖父母が鬼籍にいる場合の方が、より母親の娘に対する豹変度合いが高くなると思われます。なぜなら祖父母が既に亡くなっている場合は、記憶のアップデートが出来ません。よって娘 (つまり孫) の態度をみて、祖父母がどのように感じるだろうかが読めません。母親はこれまでの記憶から祖父母の反応を想像するしかないのです。

母親自身が、「もう時代も世代も違うのだから、私の娘のこのような決断をきっと祖父母は許してくれるだろう」と思ってくれれば皮がむけて時代が流れます。しかし母親は「娘が従順でなければ自分が既に亡くなった祖父母から嫌われる」という怖さが重なり、亡くなった祖父母の不機嫌までも想像し、娘に対して不遜な態度を取ってしまったりします。

支配されて育った母親は、「墓から送られるメッセージ」も怖いのです。

 「現在生きている人間」を優先する

コミュニティー

まとめると、祖父母に支配されている母親が、娘に対して豹変した態度になる理由は二つです。

一つは「捨てられる怖さ」です。つまり「娘のそのような態度を祖父母が聞いたら、”どういう育て方をしたの。やっぱりあんたはダメな娘ね” と、母親自身が墓に眠る祖父母からとがめられる」と怖さです。もう祖父母はいないので、娘にとっては理由がわからず、結果的に母親の態度の変化は「豹変した不機嫌」に見えます。かたや母親には記憶の中の祖父母が蘇ってくるのです。

もう一つは「嫉妬」です。これは「もし娘のそのような自由な態度を私が許してしまったら、私が祖父母に対して不本意ながら従ってきたのは何だったのか」という鬱憤です。

 日本は先祖を敬うように教わる節が強い国です。これは見方を変えれば、世代間に嫉妬が残ることなく、円滑に親子関係が回ることにも寄与します。上から教わったやり方は、下にそのままやれば良いということにもなりますので簡単です。

「上の世代の人は、さらにその上の世代に捉われている」という考え方は、「この人は、ここにいない人の機嫌を考えすぎる」と、家族を飛び越えて社会の人間関係にも応用できるでしょう。

【実家帰省したくないを解説】まとめ

最後に突然ですが、「親孝行」という言葉が、なぜ推奨されるのでしょうかを述べたいと思います。

考えてみれば「親孝行」という言葉は、最初に下の世代の子どもたちが、「この言葉はいいね」と感じる文言ではありません。当然、上の世代の人間にウケが良くて広がったと考えざるを得ません。そしてその直接的な理由は、「親孝行」という言葉が浸透されれば、親は子どもから恩恵を受けるのが当然という正当性が期待出来ます。しかしこのような正当性を欲しがる背景には、「不本意な想いをしてまで上の世代に従ってきたことは、間違いではなかった」と思いたい気持ちを支えてくれることにもなります。

ちなみに中国では、子どもがいくら海外で活躍しても、やがては帰国して両親と同居して面倒をみるというのが一つの大きな考え方と伺います。よって一度海外に出た中国の方は、このような母国の両親の強い言い分に悩み、当院にも多く受診します。どうも「親孝行」の意味の捉え方は、日本よりも相当大きいようです。

最後は多少脱線しましたが、このような世代伝達の軋みは、こと社会においては「パワーハラスメント」問題にも応用できると思います。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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