9Jan
〇 納得感がない体験や決断が、いびつな人間関係の源
今回は改めて、昔ながらのアルコール依存症治療の「三本柱」を見つめていきたいと思います。背景にはこのマークが出たころには、援助側も当事者側も「酒をやめる」こと自体が目標になってました。
よって逆に言えば他の点に新たな不具合が生じても、酒をやめ続けていさえすれば良しと受け取られていたのです。そこには人生において大切な「決断した経緯」もなく、ただただ「やめる」と評価されるです。(反対に止めていなければ、他は無難でも評価されません。「まぁその人の選択だから仕方ないんじゃないの」と投げやりに扱われます。)
そもそも依存症とは衝動の治療です。そして衝動の治療には、科学的に妥当性はあっても全員が右に倣えでうまくいく、つまり納得のある決断と思えるということはありません。なぜならそこには人それぞれの経緯があり、この経緯を財産として次の価値形成にシフトしていくという、どなたでも持っている人生の流れがあるからです。
根拠とリスクを考えることなく受け入れた事実は、あとで悶々とした思いが湧き上がり、この思いを消すためにまた酒を飲むというループにもつながります。納得感がない決断は次の我慢を呼び、増量すれば周囲への当たりちらしや相手を引っ張ることにもつながります。ちなみに世間でのいじめやパワハラ、お局などがこのような思いの典型例です。
自分をごまかした影響として、次のいびつな人間関係をもたらします。
前置きが長くなりましたが、三本柱とは何だったのか、そして今後の意味合いを振り返ってみます。
〇 依存症は「衝動の病」- 援助もモノを買う流れから考える
改めてアルコール依存症「三本柱」を改めて掘り下げていきますが、今回の視点は突拍子ですが「マーケット理論」です。
というのも、精神科では症状の病とともに「衝動の病」を扱います。アルコール依存症は、衝動統制障害の古典的かつ代表的な疾患です。衝動の病ですからその基本は普段私たちが物を買う、つまり購買の流れと似ています。つまり「その気になる」ことが前提です。
よってその援助も同様に、「いかにしたらアルコール依存症の治療に誘えるか。より抵抗なく向き合えるか…」。このような視点から、アルコール三本柱がどのように意味付けされるかを考えていきます。
〇 これまで三本柱の最後だった「自助グループ」を筆頭に
アルコール依存症治療の三本柱とは、「通院」「服薬「自助グループ」の三つを指します。これにも通常は順番があり、実は上記の順番で紹介されることが多いです。なぜそのような順番かの根拠はないでしょうが、おそらく患者さんがたどり着く順番から来ているのではないでしょうか。
まず受診してアルコール依存症を認め、抗酒剤を服薬し、その後自助グループ導入という流れを表したに過ぎないと思います。従って、もちろん治療の順番を連想して頂くという意味では、自然にこのような三つの書き方でよろしいのでしょう。
〇 ナッジ(誘う-いざなう) という視点
この三本柱が出てから、はや四半世紀を過ぎております。そこで順番を含めて意味付けや根拠としての掘り下げを考えます。そこでマーケットの考え方とアルコール依存症治療啓蒙活動の視点につなげれば、先述のように今後は自助グループを最初にという流れが出てくるのではないかと考えています。
現代のようにSNS等が隆盛した現代では、自分の状態や情報を明かさずに周囲の情報を得ることが可能な程度が、以前とは大きく異なります。そのような意味からも、元祖「否認の病」であったアルコール依存症の決まり文句、「俺はアル中じゃねぇ」に対する突破が必須かという段階に入ってきます。
私は飲酒で悩む治療経験のない方にいきなり「私は、酒をやめます」といわれたら、その目指す方向性を伺います。しかし大抵は不明瞭で、一見明確に思えても掘り下げて訊いていくと、「身体が元に戻れば」「○○さんが××してくれれば…」など「条件」が多く含まれ、そしてこの条件とは自らがハンドリング出来ない理想に期待しています。
もちろんここには「酒をやめさえすれば、自分が我慢してきたことが今度は黙っていても解決するはずだ」という思い込みを感じざるを得ないところまで、追い詰められているという流れがあります。
薬物療法の視点から見ても、いままでは長らく抗酒剤だけでした。しかしいまは嫌酒剤や酒量低減剤という名目でアルコールの治療に保険適応される薬が出て数年経過しています。「アル中であることを認める」ことがまずなければ、この衝動の病の治療には結びつかないということは、もはや必ずしも言えなくなっていると感じます。
(その2へ続きます)
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最後に
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