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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

お薬の抜き方

 
 
スマホを触るドクター
 

○精神科薬物療法の前提

前回は神経症(適応障害)やうつ病の薬の入れ方について解説しました。ポイントは向精神薬(抗うつ薬・精神安定剤・抗精神病薬)の効き方は、頭痛薬や風邪薬、消化器の薬など日頃皆さんが市販薬などで服用する場合の考え方とは異なるところでした。つまり知らず知らずのうちにこのような市販薬の場合時は、得てして効果判断の時間を早くしていることでしょう。例えば服用後何時間とか、翌朝には効いているという考え方を自然にしていると思います。

しかし向精神薬はその機序が異なります。特に血中濃度の安定により作用をもたらす抗うつ薬などに対し、上述の頭痛薬などと同じような見方をしてしまうと、早々と効果がないと判断してやめてしまったりします。最初の数日間は吐き気や眠気の副作用があることも伏線にあります。

このコラムでは物事の捉え方を拡げていくための様々な材料を取り上げておりますが、薬物療法でも気を付けることは、「前提との違い」です。これまでの生活の中で持っているだろう前提と異なる状況が考えられる場合、その前提を慮りながら一つ一つ説明していくことになります。

○薬を抜く場合もゆっくりと

前回は(特に抗うつ薬について)薬を入れる場合の考え方でした。今回は薬を抜く場合です。

抜く場合も基本的には飛行機の飛び方のように、急激に量を変えることは勧めておりません。これは降下角度がつきすぎると、飛行機が墜落する恐れをイメージしてください。もちろん「下げすぎと感じた時に元の量を戻せばいいのでは」という発想が浮かびますが、今度は降下中の飛行機が再上昇する場合の機体の動きを考えてみましょう。機首が下がっている状態から急激に角度を上げようとすると、機体が地面に対して垂直になって却っていわば墜落の危険性が出てきます。

従って、下げてうまく行かずに例えば元の量に戻すまででも、少しずつ上げ直す必要があります。このように減量時においても、「うまくいかなかったら、すぐにもどせばいい」とはなりません。これもあくまで「血中濃度」の増減により効きがみられるという機序によるものです。

○減量のタイミング

状態が回復してきた時に診察上一番きかれるのは、「減量をいつから始めるか」です。減量希望の動機は大抵「飲まなくてもいい人間に戻りたい」という側面です。

一方で薬のなじみ具合としては、高血圧の薬や糖尿病の薬と似ており、「今薬を飲んでいて問題がなければ、その量がちょうど鍵と鍵穴の関係になっており安定をもたらしている」とみなせます。

特に神経症(適応障害)やうつ病の際に主剤として服用する抗うつ薬は、この側面が大きいです。従って最初の状態や回復程度にも寄りますが、基本的には回復して生活に支障がなければ、一年以内は服用して再発を防ぐというのが主流になってきています。

○積極的に減薬をする場合

しかしその中でも減薬をしていく場合もあります。臨床上一番多いのは「日中の眠気が出てきた時」でしょう。抗うつ薬は初期投与から効果発現時期までを除き、身体にあっている容量では、眠気を催すことはありません。

つまり状態像に見合った投与量を維持されているときには、昼間に眠くなりません。しかし抗うつ薬は脳の回復を目指しているので、薬が要らなくなった程度まで回復している場合には、その薬自体が今度は反作用として眠気として現れます。回復によりピントが合わなくなります。

臨床的には「午後2-4時ごろ、特におなかも満たされていないときに、今までなかったような眠気」が新たに出てきた場合や、「仕事をしている平日より、予定がない休日の方がかえってかったるい」など生活への支障としての違和感が出てきた場合は、適切な量への減量を試みます。ちなみに繰り返しですが、多くの薬はゆっくりと下げていきます。

○まとめ-迅速な判断に距離をおく

このように精神科の薬はあくまで個体とのバランスを作り直すことを目指すため、増減時は飛行機の上昇と定常飛行および降下に例えて説明しています。

確かに神経症(適応障害)、うつ病は周囲との兼ね合いがきっかけで生じることも多く、時に周囲から早いジャッジを求められて苦しんだゆえの発症も少なくありません。

その中で当事者は「迅速な判断」がいつの間にか良き前提として捉えている可能性があり、こと薬物療法時には薬効判断の時期や仕方も含めて、前提との違いを擦り合わせる説明をしています。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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