1Jun

「痩せていないと注目されない?」という違和感
摂食障害の方の中には、「痩せていないと注目されない」「痩せていれば価値がある」という信念を抱えている方が少なくありません。しかしその背景には、単純な承認欲求ではなく、「他者との比較」によって常に自己評価が揺れ動いている心理構造が見え隠れします。
私が臨床で「痩せていれば注目されるということですか?」と尋ねると、「そうではない」と多くの方が答えます。では何を求めているのか。返ってくるのは「他の人より痩せていること」―つまり「相対的な位置」が重要なのです。
強迫性障害としての摂食障害
このような「比較」への執着は、強迫性障害に似た構造を持っています。自分で選んでいるように見えて、実際には「比較から逃れられない状態」に置かれている。そしてその比較の基準は、常に“他人の目”によって作られているため、自分でコントロールできません。
よく「ハワイ旅行に行ったら食べ吐きが止まった」という話があります。これは一見すると不思議に思えるかもしれませんが、「周囲に痩せている人が少なく、比較の対象が変わった」ことや、「痩せること以外に優先されることができた」ことによるものです。
つまり「痩せていること」に対するこだわりも、その人本来の望みではなく、周囲の基準に適応するために形成された二次的なものなのです。

「止めること」が治療ではない
依存症にも言えることですが、摂食障害の治療において大切なのは「なぜそれが起きているのか」を理解することです。ただ止めるだけでは、本質的な回復にはつながりません。
アルコール依存症で断酒だけを目的にすると、今度は周囲にも断酒を押しつけ、「飲むのはダメ」と決めつける心理が芽生えることがあります。摂食障害においても「痩せるべきではない」「普通に食べるべきだ」と言い出すようになり、他者にもそれを求めてしまうのです。
それは「自分が影響を受けてきた呪縛」を、今度は他者に向けて再演しているとも言えるでしょう。
おわりに:比較され続けたあなたへ
なぜ人は「人と比べる」のでしょうか。それは、周囲から「そうあるべきだ」と教え込まれたからです。比較をやめられないあなたを責めるのではなく、比較の構造に支配されてきたあなた自身を理解することから、回復が始まります。
「ただやめる」のではなく、「なぜそれが必要だったのか」を一緒に紐解いていくこと―それが、摂食障害への本質的な手当てであると考えています。