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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

摂食障害は何に対する否認なのか (後)

 
 
 

今回は摂食障害のアディクションとしての解釈の最終項です。「敵意帰属バイアス」という心理学用語を前提として説明します。下記の論著に示しています。

精神科治療学 第38巻増刊号:アディクションとその周辺/星和書店 (seiwa-pb.co.jp)

敵意帰属バイアス(hotility attribution bias)

前半・中盤を受けて、最後はここで摂食障害の人の心理を掘り下げるために、心理学用語である「敵意帰属バイアス」を用いて説明しました。この敵意帰属バイアスとは、「その事実は私のせいで生じた」と思う勘違い(帰属バイアス)から、その事実をもたらした相手に敵意が向かうという人間の心理です。

私が思いつく例の一つは「煽り運転」です。例えば右から私の車の前に入ってきた相手の車は、次の交差点で左折をしようとしたのかもしれません。しかしその入り方が急だったなど予想外のことが生じると、過去の「思いがけない」強引な体験を被らせて、「私が悪いのか」という過剰な勘違いを引き起こし、これに対抗する術として攻撃としての煽り運転が始まります。従って煽り運転のより車が止まった場合、加害者は被害者の運転席を叩いたりして、「なにやってるんだ」などと言ってきます。

つまり煽り運転の加害者は被害者として自分を位置づけることに敏感で、その機会に接すると「お前まで俺を悪いっていうのか!!」と過去をオーバーラップしているのです。

敵意帰属バイアスの他の例

このような過剰な体験は、昔よく不良と呼ばれる人たちに生じた、ちょっと目が合っただけで「なに見てんだよ!!」と一触即発になる場面が分かりやすいかもしれません。これは生い立ちの中に「目が合った」=「何をやるかわからないから監視されている」など、本人にとって不利や我慢に繋がるような体験がまた生じると感じて過剰な防衛反応が生じ、必要のない先制攻撃をかけてしまうということです。

また三番目の例では、やたらと「失礼」と連呼する人が挙げられるでしょう。相手の予測外の行為に対して、「私が何か悪いことをしたのか」と捉えてしまい、「そんなはずはない」と否認するために相手を悪者に扱うということです。礼儀を意図的に失したかどうかは、本来相手に確認するまではわからないものです。例えパ考えが「行き届かなかった」ことを「失礼」と捉えるのは、「私のことを軽んじている」=「私が悪いっていうの?」というタコ評価に対する敏感さによるものです。

このように事実を自分の体験に照らし合わせて、自責感として捉えてしまい、それをそれこそ「否認」するために敵意を仕掛けることが、「敵意帰属バイアス」といいます。

治療法

まとめ・摂食障害は「私が悪い」ことに対する「否認」

さて最後に今回のまとめである、拒食症や過食を伴う摂食障害が、なぜこの敵意帰属バイアスで解釈が深まるか照らし合わせていきます。

過食性障害は食行動を否定しています。だから酒や薬物やギャンブルや暴力など、行っていることを隠したい、または指摘しては欲しくない項目になっています。しかし摂食障害はこの行動自体を隠したい想いは先述のように優先的に高くありません。

上述のような旧来からの摂食障害は、自分に降りかかる特に対人関係に対する出来事に対して「私が悪い」という前提にあり、それを「否認」するために「痩せ」を求めていると解釈すれば、一歩深まるのではないかと考えています。

つまりすぐに結び付けてしまう「私が悪い」という思い込みを「否認」し、その代わりとして「私が太っているために、私が認めてもらえない」と無理矢理論理をすり替えることで、日々本人に生じる出来事に対して何でも自責の念に駆られることが、少なくて済むという防衛手段と捉えられるのではないでしょうか。

以上、前半・中盤・そしてこの後半の三部に渡り、摂食障害におけるアディクション性、いわゆる何に対する「否認」かのメカニズムを示しました。

精神科治療学 第38巻増刊号:アディクションとその周辺/星和書店 (seiwa-pb.co.jp)

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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