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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

メンタルクリニックの薬と服薬の立ち位置

 
 
 

本日は心療内科・メンタルクリニックでのお薬の位置づけについて、日頃の診療・治療で患者さんに説明していることを紹介していきます。

まずは「海に浮いている状態」をイメージする

心療内科・メンタルクリニックの診療の際によく「どのような状態になったら薬は必要ですか?」と訊かれることがあります。こころの不調における服薬については、私は次のような例えをしています。

まず薬の処方が必要かどうかを考えます。これには、「いまの私が海に浮かんでいる状態」を想像してみます。私の周りの海の状態はどうか。荒れているか、または ”なぎ” のような状態か。もし自分にとって不都合な波が見えるならば、どのあたりに見えるか。あるいは波は見えないけれども、いつ襲ってくるかを心配するか。波は目の前から有無を言わせずやってくるか、あるいは横やりのように突然襲ってきそうな波を心配するか…などです。

このように自分の身の回りの状況を想像し、次に自分の状態と照らし合わせてから治療を行います。このまま行ったら沈みそうか、あるいは浮かんでいられそうか、または大きな波が来ても泳ぐことは可能かなど、リスクとベネフィットを想定していきます。

そのあとで、いま持っている自分の泳ぎをそのままこなせそうな人、あるいは目指す方向が明確な人などは、何も身体につけない、つまり薬がない方が自分の泳ぎにより充実感を感じることができるだろうとみなします。

一方、薬なしの丸腰なら転覆や沈没につながりそうな場合は、いまは何らかの救命道具を持ってみようというのが、いわば薬治療の役割になります。自分本来の泳ぎが見えない、あるいは泳ぎを理解していてもいまは自分のイメージ通りにこなせない場合、あるいは泳ぎ方は知っているもののどの方向に進めばよいか定まらないときは、とりあえず浮いた状態で地平線を見ていた方が状況をつかみやすいと考えます。この場合は薬という救命道具をつけておきましょうとしています。

抗うつ薬は「浮き袋」(または「補助輪」)

次はメンタル不調における薬の種類による例えに移ります。まず代表的な抗うつ薬は、心療内科ではよく「浮き袋」に例えられます。浮き袋は、急な波から身体が溺れることをと防ぐ役割があります。よって特に市神経症や適応障害に使う場合の抗うつ薬は、実際に次の不都合な波を被る前に、こころの転覆や沈没などを防ぐ目的で処方されます。

あるいは必要以上に身構えてしまい立ち泳ぎになっている場合は、波がなくても自ら沈んでしまう危険性があるため、抗うつ薬という「浮き袋」で沈まないようにします。いつも水面が見えるように姿勢を保てる上に、仮に不都合な波に煽られても転覆には至らないため復旧作業を要しません。よって、薬を飲まない丸腰の状態に比べ、次の手立てを考える時間がうまれます。

別の言い回しとしては、自転車の「補助輪」とも述べています。自転車は二輪ですので、漕ぎ続けていないと横に倒れてしまいます。そこで余裕がなくて漕げない方には、抗うつ薬という補助輪をつけて、たとえ漕げなくても倒れないようにするためとお伝えしています。

薬物療法

精神安定剤は「ライフジャケット」

うつ病や神経症でもう一つ多く使われる薬は、精神安定剤です。これは抗うつ薬の「浮き袋」「補助輪」に対して、「ライフジャケット」という言い回しでよく紹介されます。

この「ライフジャケット」は常に装備はしているものの、危険が生じそうなときや、実際に遭遇してから使うことになります。飛行機での注意書きのように、何か生じたときに大きく膨らませて、不都合な事態を防ぐという位置づけで処方されます。

一方でライフジャケットは、すぐにしぼんでしまいます。よって波が何度も来る場合には、一日に何度も使わなければなりません。また波が来てから使うので、ライフジャケットの弁を抜く余裕がなければ間に合いません。よって、いつ不都合な波が来るか読めないなど事前想定が出来ない場合は、転覆自体のリスクを避ける目的で、まずは浮き袋である抗うつ薬を主剤とし、あくまで補助としてライフジャケットの精神安定剤を使うことが無難です。

特にこの「ライフジャケット」にあたる精神安定剤は、いずれは使わずに済む方向性を目指します。そのために精神療法やカウンセリング、自助グループの利用、あるいは様々なコミュニティの利用などを併せながら、こころのハンドリングが多彩になるようにしていきます。

まとめ : 服薬には見境がある

今回は「抗うつ薬」と「精神安定剤」という、心療内科・メンタルクリニックにおける代表的な二種類の薬について、例えを交えて紹介しました。

「浮き袋」・「補助輪」、あるいは「ライフジャケット」も、付けなくても良い状態ならば付けない方が、本来の私の泳ぎ方や漕ぎ方に近くはなります。従って「もがかなくもよい状態」ならば、薬を入れない方が充実する場合もあるでしょう。しかしこのまま行ったら沈んだり倒れたりが想定される場合は、たとえ薬により現在の生活に多少制約があっても、不本意な状態を被らないことを優先するのが薬の位置づけです。

薬を使うにせよ使わないにせよ、「やったことが報われない」を新たに感じることは避けたいと考えています。なぜならこころの病にとって「納得できないとわかっているのに請け負う」ことは、次に向き合うモチベーションを削ぐ要素となってしまうからです。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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