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    川崎沼田クリニック

神経症の治し方-薬物療法の意味

  • 2024
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今回は人間関係におけるトラウマ、依存症、うつ病、パニック障害、身体表現性障害、衝動統制障害など、当院で主に扱っている神経症圏疾患における治し方の一つ、薬物療法の意味と説明を述べます。

神経症を治すための抗うつ薬は「浮き輪」

当院では薬物療法時には、患者さんに説明するときに例えを使わせてもらっています。まず患者さんは頭痛薬や腹痛止め、吐き気止めなど、これまで服用した薬の効き方から飲んだらすぐに効くことが前提となっています。しかし精神科薬物療法で主剤となるものは、漢方ほどではないものの、飲んだら次の日には効きが現れるというものではありません。脳に浸透させるという流れがあるからです。

このような前提の中で、上述の神経症の疾患では多くは抗うつ薬が主剤となることが多いです。抗うつ薬ですからうつ状態に効果をもたらすのですが、他の神経症の疾患でも治す方法として主体になります。これは抗うつ薬には、不安や衝動の感度を調節する効果をもたらすからです。

トラウマ由来の神経症の疾患の時には、不安を初めとして様々な「怖さ」に関する感度が高まっています。主に脳の偏桃体という箇所の感度が高まっていることによります。様々な神経伝達物質の濃度を調節する役割が抗うつ薬にあります。

しかし抗うつ薬の効き方は「調節」に基づくものなので、一時的に効いて治すものではありません。ここが前述の頭痛薬など、一般的に売られている薬の効果とは異なるところです。

そこで私は抗うつ薬は「浮き輪」という表現をしています。浮き輪は少しずつ空気を入れて膨らませていけば、あとは飲み続けることで一定のふくらみを保ち、思わぬ波風から転覆することを防いでくれます。予期せぬことから予期できることまで感度を下げてくれることに繋がる、という治し方です。

転覆をすると復旧作業が必要となるため、その間は本来の目的である「周囲との人間関係の作り方」や「今後のどのように向かっていけばいいか」という悩みの主題を一時的に保留せざるを得ないことになります。アルコール依存症などでいわゆる「へぺれけ」になっているときも同様です。先々を想像する力を奪ってしまうので、本題に向き合い続けられるように転覆は避けたいところではあります。

神経症を治すための精神安定剤は「ライフジャケット」

対して、飲んだらすぐ効くことで、取引コスト(別コラム参照)が高い状態の心に響く精神安定剤は、転覆した時に飲む「ライフジャケット」と表現しています。転覆した時に溺れないように飲むという立ち位置にしています。決して事前に転覆を抑えてくれるものではありません。

ちなみにこのライフジャケットなる精神安定剤と言われるものは、現在では精神科てば優先的に投与することは推奨されておりません。一つは精神安定剤は耐性があります。次第にライフジャケットのふくらみが小さくなってしまうので、もっと多くの量を飲みたくなるという衝動に新たに駆られることになります。もう一つはそもそも上述の抗うつ薬のように主剤にならないことです。あくまで抗うつ薬による転覆自体を抑え込み、症状を招いた原因や目標を見失わないようにする治し方が神経症圏や衝動統制障害には重要です。

精神安定剤を優先して、転覆しても溺れないようにすることを目指すことは歯痒い姿勢になってしまいます。しかし「取引コスト」のコラムで示した通り、トラウマの影響が大きい人は「やがてうまくいく」が信じられなくなっています。従って抗うつ薬の効きとして「浮き輪」が膨らんでくる期間である2週間程度を待つことが出来ないことがあります。

私は当事者のこのような過去の出来事から学んだ取引コストの高さも考慮し、浮き輪が含んでくるまでの期間、抗うつ薬に合わせて精神安定剤を投与することがありますが、神経症にならざるを得なかった前提や当事者の歩みを主眼に捉えていれば、処方薬依存の状態はもたらさないでしょう。

この時の精神安定剤の使い方については、私は「飛行機のタイヤ」と称しています。滑走前のガタガタ感を抜き、かつ飛行機が浮き上がったら格納するという意味合いです。ちなみに精神安定剤は用いない方が、抗うつ剤を初めとする主剤の効き目は高くなるようです。依存や乱用の危機感だけではないようです。

「目先の利益が唯一信用できる」というトラウマの、神経症への影響を踏まえた治し方

もっとも、近年は抗うつ薬(浮き輪)に絡める薬剤として抗精神病薬を使用する神経症の治し方が多くなりました。抗うつ効果の増強療法とされ、当初から抗うつ薬と同時に投与することも多く、ライフジャケットなる精神安定剤に変わるものとなっています。ちなみに抗精神病薬の場合は、抗うつ薬と同様にある程度の期間続けることも出来ます。

最近は処方薬の依存性や乱用性という視点が、よりクローズアップされることになりました。薬の種類が多くなっていることもあり、処方の手数が以前より多岐に及ぶようになったこともあります。一方でライフジャケットなる精神安定剤を定期的に使い続けることは、膨らんで閉じてを繰り返しているだけで生産性が出ません。また「取引コスト」の項目で述べた「目先の利益しか信頼できない」思いを助長するだけになり、心理的側面でも新しい展開になりません。

もちろん「今すぐの成果しか信用できない」と考え方をもたらするのがトラウマの大きな影響であることは慮りつつも、少しずつ考え方の裾野を拡げて「使い分けていく」ことを下支えしています。

最後に

川崎市のメンタルクリニック・心療内科・精神科『川崎沼田クリニック』では、神経症でお悩みの方の診察も行っております。下記HPよりお問い合わせください。
https://kawasaki-numata.jp

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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