31May

はじめに
「大切にされたい」という気持ちは、誰もが心の奥に持っているものだと思います。
でも、実際に優しくしてもらったとき、なぜかその気持ちを素直に受け取れない。そんな経験はないでしょうか。
親切にしてくれる人から、なんとなく距離を取ってしまう。助けようとしてくれる人に、つい刃を向けてしまう。せっかく築いた関係を、自分から壊してしまう。
そういった行動を繰り返してしまうとき、多くの方は「どうして自分はこうなんだろう」と自分を責めます。でも実は、これは意志の弱さでも、性格の歪みでもありません。
その奥には、長い時間をかけて身につけた、ある「心のくせ」があることが多いのです。
優しさが「不安」に変わる理由
子どもの頃から、十分に大切にされてこなかった方がいます。
そういった方が経験から学んできたのは、「傷つくけれど見捨てられない」「怒られるけれど関わってもらえる」「支配されるけれど存在は認めてもらえる」という関係のパターンです。
すると大人になっても、無意識のうちに、そのパターンを「安心できるもの」として感じてしまいます。
反対に、本当に優しくされると、何か裏があるのではないかと疑ってしまったり、期待に応えられなかったらどうしようと怖くなったりします。結果として、「苦しいけれど慣れた関係」の方が、落ち着いてしまうのです。
これは、その人が「おかしい」のではありません。かつての環境に適応するために、心が覚えてしまったことなのです。
自ら嫌われる方向へ向かう心理
こうした心のくせを抱えた方は、ときに自分から関係を壊すような行動を取ることがあります。不機嫌になる、約束を破る、相手を試す、突然距離を置く。
本人にその自覚はありませんが、心の奥には「どうせ最後には見捨てられる」という予感があります。だったら、見捨てられる前に自分から壊してしまった方が楽だ、という気持ちが先に動いてしまうのです。
嫌われたのではなく、自ら嫌われる方向へ向かっている。過去に何度も失望を経験してきた方ほど、「大切にされてから失う苦しみ」を避けるために、無意識のうちに同じ結末を繰り返してしまいます。
「またやってしまった」と感じるたびに、自己嫌悪が深まる。そのループから抜け出せないでいる方は、決して少なくありません。

助けようとする人が攻撃されてしまう理由
この心理は、医療者や支援者との関係でも起きやすいものです。
本来なら安心できるはずの「助けてくれる人」に対して、親切にされるほど不安になり、理解されるほど疑いたくなり、支えられるほど試したくなる。
攻撃的になったり批判的になったりするのは、感謝がないからではありません。むしろ逆で、本当に助けを求めているからこそ、その関係を失うことが怖い。その怖さが、攻撃という形で出てしまうのです。
これは、支援の現場でもとてもよく見られることで、「試し行動」とも呼ばれます。本人が自覚していることはほとんどありません。
依存症や繰り返す問題行動との共通点
依存症や、繰り返してしまう問題行動の背景にも、同じ仕組みが働いていることがあります。
子どもの頃に十分にもらえなかった安心や愛情を、大人になって取り返そうとする動き。でもそのやり方が、しがみつく・試す・責める・攻撃するという形になってしまう。
本人は愛情を求めているつもりでも、かつての苦しかった関係をなぞるように動いてしまうのです。知らない安心よりも、慣れ親しんだ苦しみの方が「安全」に感じられるから。
これは意志の問題ではなく、心が身につけてしまったサバイバルの方法です。だからこそ、一人で変えようとするのはとても難しいのです。
おわりに
人間関係で同じようなことが繰り返されているな、と感じたとき、それはあなたが弱いからでも、おかしいからでもありません。
ただ、長い時間をかけて身につけた「心のくせ」が、知らないうちに今の関係に影響しているだけです。
「なぜ自分はこうなんだろう」という問いに、一人で答えを出そうとしなくていいのです。こうした悩みは、適切なサポートがあれば、少しずつほぐしていくことができます。
もし心当たりがあるなら、ぜひ一度、専門家に話してみてください。あなたの「繰り返し」には、必ず意味があります。そしてその意味を一緒に解きほぐしていく場所が、精神科・心療内科のクリニックです。
勇気を出して扉を開けてみることが、長い年月をかけて身につけた苦しいパターンから、少しずつ自由になるための、最初の一歩になるかもしれません。
最後に
川崎市のメンタルクリニック・心療内科・精神科『川崎沼田クリニック』では、さまざまな精神的なお悩みをお持ち方の診察を行っております。下記HPよりお問い合わせください。
https://kawasaki-numata.jp
院長プロフィール
川崎沼田クリニック 院長
日本精神神経学会 専門医
沼田真一
平成12年、秋田大学医学部卒。
同年東北大学医学部精神科に入局後、東北会病院(仙台)嗜癖疾患専門病棟にて併行研修。
平成14年、慶應義塾大学精神科医局に移り、同時に家族機能研究所・さいとうクリニック(東京・港区)で研鑽する。
平成16年、財団法人井之頭病院(東京・三鷹)で、アルコール依存症専門病棟担当医。
平成17年よりはさいとうクリニックで、アルコール依存・摂食障害・DV(虐待)・ひきこもりなど家族問題と精神疾患に従事する傍ら、産業医としての診療や各種のハラスメントなど組織内の人間関係問題に対する相談業務を担う。







