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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

川崎での精神医療は・1

 
 
いじめ 加害者 被害者
 

私は家族・対人関係問題や社会事象に伴う精神医療が専門のため、今日は多様性の高い川崎でメンタルヘルスを扱うメリットを述べていきたいと思います。まずは産業メンタルヘルスを例にとります。

〇 様々な社会問題を有する川崎

私は仙台から上京後から川崎市に在住し、在住10年後の2013年から川崎市川崎区の川崎市役所の傍で開業して今年(2023年現在)で満10年となります。

東北大学の研修医時代からアルコール・摂食障害病棟に触れ、研修医終了後に上京後は、アディクション全般に対象を拡大することになりました。この分野では生育や家族関係の影響の多大さを無視できず、虐待やDV、ひきこもりなど社会問題を掘り下げていきました。精神科医5年目、精神保健指定医をまだ持てない年次でアルコール依存症治療病棟を単独で任された時期もあり、同時に保健所の依存症担当窓口を開業時まで数か所兼任しました。

毎日川崎市と都内を往復しながら、余計に都内と川崎の違いを体感することになります。まずは川崎市でも川崎区は日本有数の「工業地帯」。そこには想像に難くない典型的な男性社会がありました。私が実際に携わったある事業所では女性従業員は1%というのもありました。その典型的な男性社会では、以前の言葉を用いれば「体育会系」を重視され、かたや女性従業員の事案は現在でいうハラスメントが多くありました。

折りしも精神科産業医を必要とする企業の増加もあり、このように産業医や精神科顧問医として複数の企業のメンタルヘルスを担うようになりますが、こと私に白羽の矢が当たったのは、職務上の事案が従業員個人の事情に由来するとわかるものの、企業の立場でどのようにアプローチするべきかに悩む事案が多かったからかもしれません。当時は平日に破壊者に行けず、休日になるとスキーや旅行など個人の予定に無難に取り組めるという、「新型うつ病」と呼ばれる病態が増えてきた時期でもありました。人格的な問題と捉えられる動きがあったのでしょう。

〇 依存症・社会問題への取り組みから、産業メンタルヘルスへ

さて産業メンタルヘルスでは、企業内に生じる関係性が重要になります。まずは上述のように従業員の生い立ちや、現在生じている個人事情の以後の職務への影響を占う必要があります。一方でオフィスの内部統制(ラインケア)や、その企業の前例との兼ね合いも慮る必要が生じます。あるいは出向者や客先常駐者は、企業内部の事情や顧客先との関係性もあるでしょう。

ちなみに前述の「女性従業員に対するハラスメント」の事案には、ハラスメントの事実も歴としてありますが、被害者側の「実は」として「女性社会だと馴染めなかったので、男性ばかりのこの企業に応募した」など、企業に携わる以前の事情が含まれたりすることもあります。このように過去の背景は、事実の捉え方や影響に関与することは実体として無視できません。

このように様々な立場を柔軟に見ていく必要が生じるため、決して疾患の在りように科学通りに向き合うという、綺麗な教科書通りにはいきません。しかも大切なことは、今後従業員個人が、その企業においてどのように携わることになるかを、個人の背景も踏まえて占う必要も出てきます。これは表立っては言えないでしょうが、企業においては重要な危機管理項目でしょう。

〇 根拠を持った予測へ :「~するしかない」とは言わなくなる

このように産業メンタルヘルスは、疾患そのものに加え、様々な立場を汲んだ上で先々を想定し、かつ企業の余力や経験との擦り合わせをする必要が出てきます。「この方がこの立ち位置で、このような相手と取り組むと、以後どのように展開するか」を予見する必要が出てきます。疾患以外の事情にクローズアップせざるを得なくなってきています。

ちなみに産業医は診察同様に従業員個人の病態像そのものに重きを置き、企業の事情を抱える人事労務担当者と対峙してしまうことが度々聞かれます。企業は企業内部の統率や社会に対するコミットメントを担っているため、従業員個人の像のみを見つめるわけにはいきません。

一方で従業員の個人事情や背景に踏み込むには限界があり、またその背景の連想にも限りがあるでしょう。そのような時に、専門である依存症を含めた様々な衝動統制障害や不安障害に対する経験が、事案解決へ向けての提案や、対人トラブルやさらなる社会問題への拡大防止に少なからず活かされていると感じています。

ちなみにこの対人関係と社会問題の分野は、「治す」とか「元に戻す」という修復の分野ではなく、新たな自分を作り上げていくことに携わる構築の分野です。よってこの先の洞察が可能ならば、「~するしかない」という提示は出なくなると実際に携わっていて感じます。よしんば仮に「”今は”~するしかない」という言い回しを使わざるを得なかったとしても、その背景から今後の展開と危機管理について根拠を持って示すことが出来るため、企業と個人の事情に合わせて柔軟に折り合いを作る流れが作れてきます。

〇 寄り添ってナッジするために

実際に長期的に産業医面談を続ける必要がある事案は、過労や業務相性など労務誘因の精神不調患ではなく、オフィスでの人間関係、人格形成の流れ、仕事に対する捉え方など、企業で教育が出来る範囲を超えた事情が多く含まれるものです。

企業は集団ではありますが、これは個人のピースから成り立ちます。従って従業員個人に対しては、その生育や個人の体験を踏まえてナッジしていくことが、産業メンタルヘルスにおいて今後益々必要になってくるのではないかと考えています。

このように世間の常識や道理を重視しては、家族を含めた対人関係問題や社会情勢を広い視野で賄うことはできないでしょう。よって多様性を有する川崎という環境で日々メンタルヘルスに携わっているのは、今後も患者さん本人の価値観や社会の変化を、柔軟性をもって捉えていく上で役立つと考えています。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
神奈川県川崎市川崎区砂子2-11-20 加瀬ビル133 4F