7Jun

はじめに
「新型うつ」という言葉は、ときに批判的な文脈で語られます。「嫌なことから逃げているだけではないか」「昔の人はもっと耐えていた」といった声は、今もあちこちで聞かれます。しかし診療の現場でお会いする方々は、怠けているどころか、むしろ長い年月をかけて誰よりも「頑張り続けてきた」方であることが少なくありません。
この記事では、新型うつと呼ばれる状態を「反動」という視点から読み解いていきます。表面的な行動だけを見れば「わがまま」に映るかもしれません。しかしその背景には、長年の我慢、過剰な適応、報われることのなかった努力が積み重なっていることがあります。
なぜ「頑張れた人」が突然動けなくなるのか。なぜ「大人のはずの人」が子どもに返ったような反応を示すのか。その問いに、発達的・関係的な視点から近づいてみたいと思います。
頑張れた人ほど、動けなくなることがある -「新型うつ」になるまで
子どもの頃から「迷惑をかけてはいけない」「空気を読みなさい」「我慢しなさい」と言われて育った人は、自分の気持ちよりも周囲を優先することが、いつしか「当たり前」になっていきます。そのような方は往々にして、職場や家庭で責任感の強い人として評価され、周囲からの信頼も厚いものです。
しかし「我慢することが自分の役割である」という前提のもとで生きてきた人の内側には、少しずつ負債のようなものが蓄積されていきます。承認されなかった努力、言葉にできなかった不満、飲み込み続けた感情・・・。これらは消えたわけではなく、ただ見えないところに押し込まれているだけです。
そしてある日、その積み上げが閾値を超えたとき、「もう頑張りたくない」「何もしたくない」という形で一気にあふれ出ることがあります。これが、いわゆる「新型うつ」の様相として外側に映るものの一つです。
逆説的に聞こえるかもしれませんが、新型うつを呈する方は、「頑張ることができなかった人」ではありません。むしろ「頑張りすぎてきた人」に多く見られます。動けなくなったのは怠けではなく、ブレーカーが落ちた状態・・・それ以上の負荷をかけないための、こころの防衛反応とも言えます。

「取り返したい気持ち」が極端な反応を生む -「新型うつ」の心理
行動経済学のプロスペクト理論では、人は利益を得る喜びよりも、損失を受ける痛みをより強く感じるとされています。こころの領域でも、似たような構造が働くことがあります。
過去に十分に認められなかった人は、いま少し評価されたくらいでは満足できません。心のどこかに「昔のマイナスを取り返したい」という感覚が宿っており、それは現在の「プラス」では埋まらないのです。過去のマイナス1は、現在のプラス1では補われず、プラス2やプラス3を求めてしまいます。
この「取り返し願望」は、本人が意図して発動させているわけではありません。それはむしろ、長年の不満や傷が蓄積した結果として、自然に働く心理の動きです。しかしその結果として、怒り、拗ね、ふてくされ、「なぜ私だけが」という強い被害感が前面に出ることがあります。
外から見れば「大げさな反応」に映っても、本人のこころの内側では、長年積み上がったマイナスに対して当然の主張をしているにすぎないのです。この非対称性が、新型うつをめぐる周囲との摩擦を生む一因でもあります。
「子ども返り」として理解できる部分
新型うつと呼ばれる状態の中には、「子ども返り」という視点から理解できるものがあります。
子どもの頃に十分に認められなかった、大切にされなかったという体験が続いた方は、大人になってから「今度こそ分かってほしい」「今度こそ大切にしてほしい」という感情が表面化することがあります。これは本人にとってのわがままではなく、長年抑え込んできた感情がようやく呼吸できるようになった状態とも言えます。
職場では「ある場面だけ極端に動けなくなる」、家族には「別人のように拗ねて話を聞かない」・・・こうした行動は、発達的な観点から見れば、「当時果たせなかった感情的なやりとり」を、安全だと感じた相手・状況に対して再現しているとも理解できます。
依存的な行動や対人関係のトラブル、過剰な反応なども、この延長線上で読み解けることがあります。大切なのは、表面に現れた行動だけを問題として扱うのではなく、その人が何を抱えて生きてきたのかに目を向けることです。
▼「子ども返り」については下記の記事をご参照ください。
最後に
川崎市のメンタルクリニック・心療内科・精神科『川崎沼田クリニック』では、さまざまな精神的なお悩みをお持ち方の診察を行っております。下記HPよりお問い合わせください。
https://kawasaki-numata.jp
院長プロフィール
川崎沼田クリニック 院長
日本精神神経学会 専門医
沼田真一
平成12年、秋田大学医学部卒。
同年東北大学医学部精神科に入局後、東北会病院(仙台)嗜癖疾患専門病棟にて併行研修。
平成14年、慶應義塾大学精神科医局に移り、同時に家族機能研究所・さいとうクリニック(東京・港区)で研鑽する。
平成16年、財団法人井之頭病院(東京・三鷹)で、アルコール依存症専門病棟担当医。
平成17年よりはさいとうクリニックで、アルコール依存・摂食障害・DV(虐待)・ひきこもりなど家族問題と精神疾患に従事する傍ら、産業医としての診療や各種のハラスメントなど組織内の人間関係問題に対する相談業務を担う。







