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    川崎沼田クリニック

トラウマの影響と認知行動療法(後)

 
 
コミュニティー
 

前半はトラウマと機能不全家族について再考しました。後半は認知行動療法など将来を拡げる治療法を用いる際における、トラウマサバイバーの反応を踏まえた留意点です。

変わりたいのに、たじろがせる理由

さてこのような家庭や生育での前提が、トラウマ体験者の裏が有する裏側の間接的な体験として捉えていくことが、実はとても重要です。

なぜなら、思春期以降人間関係などを契機として感情のコントロールに悩み、アディクションで逃れてというのを繰り返している中で、トラウマ体験者は当然ながら表の感情としては「変化」を求めて治療者や援助組織を求めます。しかし一方で体験者は、「変わってはならない」という含みが、常にはびこっているのです。

長い間「変化してはならない」という思想の煽りを受けているため、一歩違った流れに踏み出そうとした瞬間に、今度は「変化しようとする、新たなことを考えようとするダメな私」という感触にさらされてしまうことがあります。

言葉では「変わりたい」と言っています。しかし「変わりたい」と思えば思うほど、過去の煽りがやってきます。「そんなことをしてはいけません」という言葉です。

「口撃」は攻撃ではなく防衛である。

実際に診察や援助の場では、特にこのような逆説的なことが頻繁に生じます。具体的には「変わっていくにはどうしたらいいか」と新たな身の振り方や考え方をと模索した瞬間に、「これ以上何を頑張ればいいの !!」という想いが出てきます。

自責感情の早期払拭に必要な最も手っ取り早い方法は、何と言っても攻撃することです。そして誰でも出来て手っ取り早い反面、とても拙い部分を含んでしまっています。当事者は助けを求めながら、助けようとする人をなじったり叩いたりしているのです。

このような流れは一見理解しがたいため、新たな軋轢を生じます。助けようとした意気込みはそがれ、最後には「放っておこう」となることも世間にはよく生じるでしょう。

トラウマ体験者に生じる「トラウマ再体験反応」には、このようなことかあります。助けてもらおうとしている人がなじってくるのですから、その心的機制に理解が必要なのは想像に難くありません。

このようなことが社会で生じているのが、いわゆるクレーマーです。現実場面で生じれば「パワハラ」「モンスターペアレント」、あるいは「お局」などになり、ネット上で行われれば最近話題の「SNS攻撃」や「炎上依存」になるでしょう。

これらはトラウマサバイバーに生じる、「変わることはあってはならない」を植えつけられた前提に伴う反応と言えるでしょう。

憂鬱 少女

「なんでわかってくれないの?」: 認知行動療法に生じる罠

前後半の結論として、カウンセリング法として保険適応にもなった認知行動療法 (CBT) との絡みで考えてみます。

CBTは現在の考え方を掘り起こし、新しい考え方を創造していく治療法です。つまり増やしていくことで過去の体験に囚われなくすることを目指します。

しかしトラウマに悩む人の場合はこれまで述べたように、「変化をしようとすると人はいけない人である」という刷り込みが背景にあります。従って例えばCBTなど新たな創造を目指す治療法の施行の際には、このように当事者が過去の体験から逆説的に考える傾向を踏まえていることが必要になってきます。

何も前提なくこのような創造治療を試行すると、トラウマ体験の当事者が「他の考え方はないか?」と自ら考えるムードに差し掛かった時に「変化への抵抗」が迫り、「これ以上どのようにして頑張ればいいの」と感情不安定に陥ったり、その不安定の払拭のための攻撃性が出てくることがあります。

このような心的機制(攻撃)の際によくもたらされるセリフが、「なんでわかってくれないの?」です。

巷でよく聞く一見批判を意味するセリフは、実はトラウマを受けて苦しんだ当事者が、さらに「変わっていいと思っているのか!!」と過去の軋轢にも囚われている様子です。当事者にはごくごく生じることで、拙い実績と誤解されないような姿勢が広まっていけばと思います。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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