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    川崎沼田クリニック

トラウマ治療のゴール(後) – 極端さを手放す

 
 
いじめ 加害者 被害者
 

前回は家族問題や人間関係上のトラウマが「極端さ」をもたらすことを中心に解説しました。今回の後半は、自動車教習の例えを用いてトラウマ治療のゴールを説明していきたいと思います。

前半記事はコチラ☞ トラウマ治療のゴール(前) – 極端さを手放す

「治す」から「創る」トラウマ治療へ – 自動車教習所のように

前回述べたことから、トラウマの影響を削ぎ落していくという精神科・心療内科治療は、つまり「これに決まっている」からの解放ではないかと思っています。これを私は自動車教習に例えています。

免許をお持ちの方はご存じでしょうが、例えば信号機の黄信号は交通法規上は「黄色は止まれ」と教わります。しかし交差点の真ん中まで出てしまうと考えられる場合は逆に交差点からでなければなりません。よって、この場合は止まってはならないのです。原則に反することをしなければなりません。

しかし人間関係のトラウマに苛まれてきた人は、その強者の圧力によって行動を制限されてきています。しかもこの制限を瞬時に行わなければならないという呪縛もあります。従って「黄色は止まれ」と言われると、状況によらず「その場で急に止まってしまおうとする」のです。考え方が一義的にならざるを得ないのです。その結果交差点の真ん中で止まってしまい、周囲からさらにクラクションを鳴らされ、戸惑ってしまうということになります。「従っただけなのに、なぜ私が責められなければならないの」というのが、当事者の主張です。

さらに、周囲が「黄色は止まれ」を守らず、状況で交差点に残らないようにしている車に対して「なぜそのようにしているのだ!!」と歯向かうようになります。これが現代ではネットでの炎上衝動でしょう。実際にはネット上でのみの情報に対し、自己体験を重ね合わせ、状況を「こうに決まっている」と思い込み、「私は黄色で止まったのに、あなたが黄色で止まらないのは不公平」という主張を述べてきます。

場合によっては「あの人が止まらなかったということは、私が黄色で止まったのが悪いっていうの?」という論理を発展させる人もいます。(ちなみにこれを「敵意帰属バイアス」と言い、近々の例では「煽り運転」の心理的防衛の流れに合致します)

保留の勇気-トラウマを治すための時間

従って人間関係トラウマの影響を取り外していくには、「ちょっと待てよ」と目の前の情報解釈に時間的猶予を自らに「創る」ことが必要となります。ちなみにアンガーマネージメントの解釈では「6秒待つ」というのがあります。「待つ」ことは解釈の幅を考えるための時間でもありますが、「私が悪いっていうの?」と自らを責めるのが、この6秒以内ということになるからかもしれません。時間が経てば私を責めなくなるのです。

少し視点は離れますが、主に関西のボケと突っ込みの「前のめり」文化は、その内容とともに調子と間 (テンポ)で成り立つところがあるため、この「6秒待ち」は得意ではないのではないかと感じます。もろちん、落ち着いてしまったら会話自体が成立しなくなると反論があるかもしれませんが、テンポが早いということは引き出しを選ぶ時間が少なくなることを指し、よってその人がよく用いる発想を目の前の場面に当てはめる、つまり決めつけてかかることが増えるリスクは孕んでいることになります。

このように人間関係由来のトラウマの治療は、二次災害に至るような火山の噴火は抑えながら、一方で「そうとは限らない」という距離感のある捉え方、そしてあらゆる発想から吟味して選んでいく流れを「創って」いうことが治療になります。

まとめ – トラウマ治療のゴールの目安とは

ちなみに「いつになったら治療は終わりですか?」とも訊かれます。これには明確に答えています。

私ども治療者は前述の自動車教習所のいわば「教習官」です。よって突っ込まれなくとも自分で運転でき、次第に教習官が邪魔になってきて、「飽きたら終わり」と考えています。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
神奈川県川崎市川崎区砂子2-11-20 加瀬ビル133 4F