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    川崎沼田クリニック

自傷行為の役割と方向性(後)

 
 
お墓 メッセージ
 

前半は自傷行為の役割や、当事者にとっての必要性について述べました。後半は自傷をしないとならないととらえるような、物事に対してすぐに緊急案件と感じる伏線についての一例を述べます。

リストカットはオーバーラップの証

自傷の中でも代表的なリストカットを例にとります。

リストカットに至った要因をたどると、まずやり慣れている当事者は理由が言葉に出来なくなっていることが多くあります。一方で上述のように「そんなことで?」という感覚が周囲には沸き上がり、当事者をさらに困惑させます。 

つまり周囲との認識の乖離が出ているからこそ、激しい行為を当事者は続けて行わなくてはならなくなります。その代表的なものがリストカットとなります。周囲とは異なり本人が感じる切羽詰まった感覚だからこそ、その行為の由縁は当事者だけに纏わる過去の体験に基づくとむしろ言わざるを得ません。

そして当事者が往々にして「あの時と同じようになってしまう」という思い込みや勘違いやもたらしてしまっています。このような見境のついていない様子は、いま生じている体験を過去と分離できないほどの強烈な体験が背景にあるのではないかと考えることになります。いわばオーバーラップを考慮していくことになるのです。

怖がっている人

性的虐待の考慮

本題から少々離れますが、昔からの医師の心得である「女を見たら妊娠と思え」というのがあります。女性の診察時は、本人が気付いていなくとも含めて妊娠中の可能性を考慮して臨まなければならないという姿勢です。

実は自傷行為の中でもリストカット衝動を有する場合は、やはり本人が気付いていないことも含めて、性的虐待を考慮しています。

これは性的虐待被害の影響は、まさに「安近短」を要するトラウマ事象の一つであるからです。また性的虐待自体の影響もさることながら、性的虐待被害は上述に述べたような様々なオーバーラップにつながります。そのようなことから、例えば現在の出来事を解釈しようとするときに、「〇は×に決まっている」として、過去の経験を無理矢理当てはめようとする思いが強くなります。

もちろん過去と今は状況が違います。しかし「わからないときには (過去の激しい体験に基づいて) 決めつける」という衝動に駆られがちになるのが性的虐待被害の影響です。「待てよ」と一歩置いて考える暇を持てないのです。

これは性的虐待被害は、考えている暇を否定します。素早く解釈しなければ対処できないという気持ちから、決めつけていないと自分を保てなくなることによります。従って、一般的には一歩引いて考えるところも、思い込みを強くすることでリスクを回避しなければならないと発展させるクセになってしまっています。これが世間との乖離につながり、新たなトラウマを抱えやすいというループにつながります。

よって「あの時とは違うのだ」という思いに変えていくことがカギになってきます。「ちょっと待てよ」と一歩引けるようになれば、緊急回避としてのリストカットは必要となくなるでしょう。

まとめ -自傷は切羽詰まった体験の裏返し-

以上、衝動行為の中でも自傷から性虐待被害に及んで述べました。今回述べたことは一部ではありますが、「衝動行為は本人にとっては緊急案件のサイン」です。よっていま生じている物事を「緊急」と捉える背景を考慮することで、当事者が持つ前提を理解しやすくなります。

自傷に限らず、衝動行為はある種の叫びです。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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