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【PTSD再考】 単純性PTSDから複雑性PTSDへ

 
 
足 落ち葉
 

PTSDとは歴史と成立

 PTSD (Post Traumatic Stress Disorder / 心的外傷後ストレス障害)という疾患名は、お聞きになったことがある方も多いと思います。俗に「メンタルを病む」という言い回しを世間ではしますが、ことこのPTSDがそれまでの疾患から分けられた点を、その歴史からさかのぼって説明します。

 最初に注目されたのは、1955年から続いたベトナム戦争の帰還兵に生じた一連の心因症状に遡ります。約20年続いたベトナム戦争で、多くの辛辣な場面を現地で体験し戻ってきた兵士達が、戦争終結から長い時間がたった帰国後の日常生活において、当時の感情や場面がふと蘇り、あわせてトラウマ・恐怖感に苛まれる状態が生じました。統合失調症など精神病性障害などとは異なり理解不能な厳格妄想もなく、病識(私は病気であるという認識) や思考のまとまりも保持され、本人自身もその違和感を認識できていますが、まるで当時の様子にとらわれているような様々な感覚に恐れ慄く状態です。

PTSDの症状概要

PTSD 症状は大きく分けて、「侵入回想」、「回避・麻痺」、 そして「覚醒更新症状」の三つが揃っている状態像を指します。厳密な診断基準にはなりますが、このうち二つまでが揃っている場合はPTSDとまでは呼ばず、その背景に絡めて不安障害・トラウマ、あるいは不安障害の分類の一つである重度ストレス障害などにあてはめられます。

なおPTSDと同じ症状を示すものに、「急性ストレス障害 / Acute Stress Disorder」という病名もあります。PTSDとの違いは、上述の三つの症状が一か月以上継続する場合には急性ストレス障害からPTSDと診断が移行していきます。

「侵入回想」・「回避・麻痺」・「覚醒更新症状」の詳細

「侵入回想」とは、先述のベトナム戦争帰還兵の例で述べれば、症状を呈するような直接的な契機・トラウマが現在目の前に生じていないのにもかかわらず、ふと当時の戦争で体験したような感覚が蘇る状態です。厳密ですが「テレビなどをみていて戦争の場面が出てきたから思い出した」など、誘因が特定される場合には、侵入回想に値するかはまだ議論があります。あくまで「侵入」してくるように、「自分がなるほどと思える出来事が目の前にない」中で、当時のことが思い出されてしまうことが苦痛の要因で、これを「フラッシュバック」と呼びます。この侵入回想に伴い、動悸や過呼吸、身体の震えなど身体症状に発展することもPTSDに特徴的な症状です。

二つ目の「回避・麻痺」は、侵入回想の症状を招きやすい状況を必要以上に回避しようとする様子です。これが顕著になり回避すら難しいと感じると、人間の防衛反応として「その体験や感覚を感じなくする」機能が自動的に発動されるような様子が「麻痺」です。特定の場面のみに防衛反応をかけるような器用なことはできないため、生活全般に適応させざるを得なくなってしまいます。ちなみに私はこれをちょうど建物の「ブレーカー」と例えています。そもそも火事を防ぐためのブレーカーですが、どこが故障あるいはオーバーシュートの原因かを瞬時に判別できないため、火災の危険を感じるとブレーカーにより家中の電気を全て消して万が一の火災を防いでいるようなものです。このように人間には、「最悪の回避」の防衛手段が備わっているように思えます。

三つ目の「覚醒更新症状」は、症状にさらされないように「いつも身構えて緊張している状態」を示します。過去に意図せずにして上述のようなフラッシュバックが生じていると、いつまた同じようなことが襲ってくるかと必要以上に身構えて身体感覚が鋭くなってしまう状態です。音や光に関する過敏さ、身体の緊張やこわばりなど、過去の恐怖体験に伴う過剰な身体反応として捉えられます。

PTSDの伏線と臨床現場

PTSD の症状は常時苛まれていることもありますが、恐怖感とそれに伴う身構えが出たりおさまったりを繰り返す場合も多くあります。そのため本人自身異常を表明しないこともあります。また当時は「戦争に行ったのだからこのようなことが起こるのは仕方がない」と、一つの違和感として本人の中にとどめることもあったようです。PTSD の伏線には、「自分の心が弱いからこのようなことが生じているのではないか」と罪悪感に駆られることも多くあります。いずれにせよPTSD を生じている当事者の捉え方は、概ね自罰的なことが多いです。

PTSD と適応障害との違い

PTSDが不安障害の中で特に分類されているのは、「過去に終了した状況に由来するもの」と因果関係を明示されていることがあります。つまり「当時のことがなかったら、現在の状態は生じない」が明確と判断されます。もちろん他の精神疾患でも実際には発端があることが多いですが、例えばうつ病などでは「誘因となった環境が消えても、同様の症状が残っている」という認識が含まれます。PTSDでは事象関連症状ではあるものの、既にきっかけとなった環境は取り除かれているのに、誘因となった場面が ”思い出されてしまい” 辛辣さを感じるところが特徴です。

一方、「原因となった環境が取り除かれることのみで症状は消えていく」と判断されるものは現在では「適応障害」と呼んでいます。これもストレス反応の一つです。なお病院の治療・診療等によってその原因が取り除かれなければ症状や状態像が続くものを「適応障害(慢性型)」としています。

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
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