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こころ、こんにちは。ブログ

    川崎沼田クリニック

こころはあくまでオーダーメイド

 
 
 

本日は「HSP」「アダルトチルドレン」「毒親」「PTSD」「発達障害」など、メンタルヘルスや心理に関わる用語の流行語化についての見解です。

精神医療流行語に対する憂い

精神科医療では、時代により流行る言葉が出てきます。本来専門用語であるはずのものが巷で流行語になるのは、マスコミの影響も多少はあるかもしれませんが、ほとんどはあくまで私たち精神医療や特に心理側の業界の事情から来るものかと思います。

かたや、対人関係の紐解きとは本当に地味なものです。もちろんこれまでの様々や分析や理論は用いますが、それでも一般化しては見えなくなります。人の背景は一人一人網の目のように絡っています。複雑に入り組んだ人間関係のもつれを、用語を集めて一気に取ってしまうことは決めつけにつながり、対人関係医療の全体を見失うことに繋がります。

対人関係治療における、身体科とのアプローチの違い

ここで精神医療と身体医療の大きく異なる例を示します。

例えば呼吸器の疾患の中に「肺気腫」があります。疾患の内容は割愛しますが、肺気腫の親翁誘因に喫煙があります。ここに肺気腫の人が出たら、内科では症状緩和の治療を施しつつ、おそらくたばこの「悪影響」を伝えながら、禁煙教育を施すことになるでしょう。

しかし症状が軽い場合は、身体と相談しながらタバコを吸い続けるという人も多いでしょう。このように肺気腫に限らず、糖尿病や肝機能疾患など生活習慣が誘因となる疾患は、先生が一生懸命収めようと治療をしながら、実は裏では患者さん本人が習慣を変えられないという、「押し問答」が多く発生します。

「これからタバコは控えましょう」

「長年の習慣だからやめられない」「ずっとそうやって生きてきた」「好きだからしょうがない」「タバコで死ぬなら本望だ」

と、このような感じです。しかし大切ポイントは、これらのような「とっさに出る返し」は、大抵本意ではありません。まして啖呵になるようであれば、これまでずっと言われてきたことによる「うんざり」から来ています。

対して精神医療では「頑張ってこれまでの生活を変えてみましょう」とはなりません。

例えば上述の肺気腫ならば、

「これほど困っているとご自身も認めているのに、それでもタバコを吸い続けるということは、タバコを吸い続けなければならない理由が他に何かあるのですか?」

となります。最初から話してもらえるとは限りませんが、次第に事情を打ち明けてもらえるようになると、

「タバコ吸って来なかったら、辛くてとても生きてこれなかったと思うよ。なぜなら…」と少しずつ掘り下げていくことになるでしょう。

実家帰省

周囲から見て稀有な行為は、本人にとっては「落としどころ」

本人なりに事情が交錯して、その辛い気持ちをたとえ一瞬だけとは言えども昇華する様々な拠り所が存在します。タバコ以外にも、酒、食べ物、ギャンブル、浪費、暴力、浮気不倫などです。これらはともすれば刑法では犯罪として扱われることも含まれます。しかし本人なりに気持ちの安定を保つための「救い」や「落としどころ」として試みです。

精神医療ではこのような類の悩みを取り扱うときに、あくまで個別の歩みを無視できません。このような一人一人の背景があるにもかかわらず、安易にメンタルヘルスとしての用語が流行る流れは、「得てしてこうである」と物事や人物像に型付けするための決めセリフとなる可能性があり、オーダーメイドを大切にしている現場にいるものとして時折歯痒い思いがします。

 

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沼田真一
川崎沼田クリニック 院長
神奈川県川崎市川崎区砂子2-11-20 加瀬ビル133 4F